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アイヌ民族の視点からみた「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(UNDRIP)

本プロジェクトのメンバーでもある、市民外交センターでは、2007年に国際連合総会で採択された「先住民族の権利に関する国連宣言」(以下、UNDRIP)をアイヌ民族の視点からわかりやすく解説し、その利用法を例示したブックレット『アイヌ民族の視点からみた「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の解説と利用法』(2008年)を発行しました。

このページでは、それをプロジェクトでさらに読みやすく再編集してご紹介しています。

UNDRIPは、「前文」「本文」に大きく分けられます。「前文」には、宣言が採択されるに至った背景や思想、宣言を貫く精神などが書かれており、各条文の解釈を行う場合に重要な部分ですが、ここでは「本文」にある46の条文のみをご紹介します。すべてをお読みになりたい場合は、以下をご参照ください。

もくじ

パート1 おもな権利[第1~6条]

第1条 集団および個人としての人権の享有

アイヌ民族は、国連憲章、世界人権宣言、その他のさまざまな国際人権法に規定された人権すべてを持っています。とくに、集団としての権利も人権として明記されている点が重要です。

第2条 平等の原則、差別からの自由

アイヌ民族は、ヤマト民族およびその他の民族と対等な民族であり、アイヌ民族であることを理由として差別を受けることはありません。また、アイヌ民族がもとめる権利も「特別の権利」ではありません。

第3条 自己決定権

アイヌ民族は、誰がアイヌ民族であるかを含めて、自らの政治的地位を決め、経済的、社会的、文化的発展のあり方を自ら決めることができます。

第4条 自治の権利

アイヌ民族には自治を行う権利があり、その中には自己の財源を制度的に確保する権利もあります。

第5条 国政への参加と独自な制度の維持

アイヌ民族は、国政に民族として参加する権利をもつと同時に、アイヌ民族政府のような制度を独自につくる権利ももっています。

第6条 国籍に対する権利

アイヌ民族の個人は、アイヌ民族であったとしても、自由に居住する国の国籍や市民権を得ることができると同時に、アイヌ民族社会の一員である資格を選ぶこともできます。

パート2 いのち・身体・自由・安全[第7~10条]

第7条 生命、身体の自由と安全

アイヌ民族の個人は、出身を隠さずあるいは差別におびえず、アイヌ民族として安心して、自然に生きていく権利があります。また、民族としての存在をおびやかされたり、言葉の暴力などを含む暴力行為にさらされることはありません。

第8条 同化を強制されない権利

アイヌ民族は、むりやりにヤマト民族の文化を押し付けられ、アイヌ文化を否定されることはありません。日本政府は、アイヌ民族から土地・資源を奪う行為や存在の否定、民族差別をなくすために行動する義務があります。

第9条 共同体に属する権利

アイヌ民族の個人は、伝統的な形でアイヌ民族という集団に属することができ、属したことから不利益を被ることはありません。

第10条 強制移住の禁止

アイヌ民族には、自らが被害者となった日本政府などによる強制移住に関して、調査を含む公正な補償を受ける権利があります。

パート3 文化・領域・ことば[第11~13条]

第11条 文化的伝統と慣習の権利

アイヌ民族は、アイヌ文化の広範な伝統や慣習を実践し、発展させる権利をもっています。これには、考古学上の遺跡、史跡、加工品、デザイン、儀式、技術、文学などが含まれます。日本政府は、こうしたアイヌ文化の知的財産が破壊や収奪を受けた場合、これを元に戻すことを含む救済を行わなければなりません。

第12条 宗教的伝統と慣習の権利、遺骨の返還

アイヌ民族の宗教的な伝統や慣習は、権利として実践され、発展させられ、また教育されます。文化的な場所と同じように宗教的場所にも、アイヌ民族は自由に立ち入り、儀式を行うことができます。遺骨や遺髪、副葬品などの返還を受ける権利ももっています。日本政府は、こうした宗教行事ができる、遺骨などの返還が可能になるように政策をすすめなければなりません。

第13条 歴史、言語、口承伝統など

アイヌ民族は、自らの歴史、言語、口承文学、哲学などを発展させ、また、共同体名、地名、人名を自ら選択し、使うことができます。日本政府は、アイヌ民族の歴史やアイヌ語、口承文学などが守られるよう実効的な政策をとらなければなりません。

Photo by Hirata Tsuyoshi

パート4 教育・メディア・労働[第14~17条]

第14条 教育の権利

アイヌ民族は、独自に学校などの教育機関を設立し、子どもたちに言語、文化、歴史などの民族教育を自らの方法で行うことができます。また、アイヌ民族の子どもは、日本のあらゆる教育を差別なく受ける権利ももっています。とくに日本政府は、北海道外のアイヌ民族の子どもを含めて、民族教育を受ける機会をつくらなければなりません。

第15条 教育と公共情報に対する権利、偏見と差別の除去

アイヌ民族は、国が制作した教科書や教育内容、一般の公共のメディアなどでアイヌ文化、伝統や歴史をきちんと紹介される権利をもっています。これは、差別撤廃のために必要なことで、これが可能になるよう日本政府は政策を立案しなければなりません。

第16条 メディアに関する権利

アイヌ民族には、独自の民族メディアを設立し、また一般のメディアに取り上げてもらえる機会を保障される権利もあります。アイヌ民族に関する記事や番組を作るようあるいは記事や番組のチェックを共同で行うよう慟きかける権利があるとも解釈できます。日本政府は、公共放送でアイヌ民族の存在や文化、歴史、言語を紹介する番組を制作するよう要求する義務があり、また全国、地方の民間メディアに対しても、アイヌ民族が正当に紹介されるよう環境をつくらなければなりません。

第17条 労働権の平等と子どもの労働への特別措置

アイヌ民族は、先住民族として、労働者の権利をすべて保障され、いかなる差別的条件でも労働させられることはありません。また、アイヌ民族の子どもが、先住民族であることによって経済的に搾取されないよう特別の対応がなされるべきです。

パート5 参加と発展[第18~24条]

第18条 意思決定への参加権と制度の維持

アイヌ民族は、自らの問題に関わる国家などの意思決定に自ら選んだ代表を送って参加することができます。

第19条 影響する立法・行政措置に対する合意

日本政府は、アイヌ民族の権利に影響を与える法律の制定や政策の実施を行う場合、アイヌ民族と事前の情報公開と透明性の原則の下で、合意(FPIC)*を得るために対等に話し合いを行なわなければなりません。地方自治体にも同じ義務があります。

*FPIC(Free, Prior, and Informed Consent/エフピック):自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意

第20条 民族としての生存および発展の権利

アイヌ民族は、民族としての生存と発展のため、独自な政治、経済、社会制度をつくることができ、伝統的な経済活動を自由に行う権利をもっています。日本政府は、アイヌ民族から剥奪された民族としての生存や発展の手段に対して正当で公正な救済を行わなければなりません。

第21条 経済的・社会的条件の改善と特別措置

アイヌ民族は、経済的および社会的な差別に対して、これを回復し、生活できるよう政府の特別措置を受けることができます。また、複合差別*の犠牲者である高齢者、女性、青年、子ども、障がい者の権利保障には特別の対応をしなければなりません。

*複合差別:民族、性別、障害、年齢などの複数の属性が交差して生じる差別

第22条 高齢者、女性、青年、子ども、障がいのある人々などへの特別措置

アイヌ民族の中にある複合差別(第21条参照)の犠牲者に特別な対応が必要であり、日本政府にはその大きな責任があります。

第23条 発展の権利の行使

アイヌ民族は、自らの伝統や価値に従って、発展する権利があります。とくに、アイヌ民族に影響を与える経済計画や社会政策があれば、これに参加することができます。また、可能な限り計画や政策を自ら管理することができます。

第24条 伝統医療と保健の権利

アイヌ民族は、文化遺産や知的財産権の一部である伝統医療に関する知識を守り、実践し、発展させることができます。また、同時に近代的医療を差別なく受ける権利ももっています。
伝統医療と近代医療は対等なもので、アイヌ民族には、こうした伝統医薬(植物薬=薬草や動物薬、鉱物薬など)を含む伝統医療を守り、利用し、発展させる権利があります。また、日本政府はアイヌ民族が近代医療を差別なく受けられるよう、医療制度や医療機関の人権教育を行う義務もあります。

森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト
Photo by Hirata Tsuyoshi

パート6 土地と資源[第25~32条]

第25条 土地や領域、資源との精神的つながり

アイヌ民族には、伝統的に利用してきた土地、水域、氷原を含む沿岸海域などの空間やそこにある資源との独特な精神的つながりを守り、強化する権利があります。これは、未来の世代のための権利でもあります。

第26条 土地や領域、資源に対する権利

アイヌ民族は、伝統的に利用してきた土地、・資源を所有し、利用し、発展させ、管理することができます。日本政府は、この権利がすみやかに守られるよう、アイヌ民族の慣習や伝統を尊重する法律による保障を行わなければなりません。

第27条 土地や資源、領域に関する権利の承認

アイヌ民族の土地・資源などの権利を具体的に認めるためには、公平、独立、中立で公開性と透明性のある手続きが不可欠です。この手続きの制定と作業では、アイヌ民族の文化や価値が尊重されなければならず、またこの手続きにアイヌ民族も参加することができます。

第28条 土地や領域、資源の回復と補償を受ける権利

アイヌ民族から不当に奪われ、損害を与えられた土地・資源などについて、まず原状回復などを含む方法で、またそれができない場合には正当かつ公正な補償を受けることができます。先住民族が特別に合意しなければ、補償は同じ規模や質をもった土地・資源で行われ、金銭での賠償はそれでも補償ができない場合の例外的な方法です。

第29条 環境に対する権利

アイヌ民族には、先住民族としての環境権があります。有害物質の貯蔵や廃棄処分の犠牲になりません。

第30条 軍事活動の禁止

アイヌ民族の土地における軍事活動は、アイヌ民族との交渉、承認がない限り行うことができません。

第31条 遺産に対する知的財産権

アイヌ民族がもつ、文化遺産や遺伝子資源を含む伝統的知識などは、権利として、アイヌ民族が守り、管理し、発展させる権利があります。この知的財産権では、従来個人に設定されていたこれらの権利がアイヌ民族の集団に保障されるよう、抜本的に見直す必要があります。

第32条 土地や領域、資源に関する発展の権利と開発プロジェクトヘの事前合意

アイヌ民族は、その全領域で、その土地・資源の利用計画をつくる権利をもっています。日本政府は、アイヌ民族の土地、その資源などに影響を与える、具体的には、地下資源、水資源、森林資源などの開発に当たっては、事前の公開性と透明性のある話し合いを通して、合意を取らなければなりません。必要な場合には、アイヌ民族やその文化にできるだけ損害を加えないよう正当で公正な救済の仕組みを作らなければなりません。

パート7 自治と法[第33~37条]

第33条 アイデンティティと構成員決定の権利

アイヌ民族は、民族組織の構造および民族集団の構成員を誰にするかを自らの方法で決めることができます。

第34条 慣習と制度を発展させ維持する権利

アイヌ民族は、国際人権基準に沿ったものであれば、民族独自の価値観に基づいた社会組織や制度をつくり、発展させることができます。

第35条 共同体に対する個人の責任

アイヌ民族は、民族の構成員に対して、構成員としての義務と責任を決めることができます。

第36条 国境を越える権利

国境によって分断されたアイヌ民族は、国境を越えて自民族や近隣先住民族との友好関係を発展させることができます。日本政府は、この権利が実現できるよう外交政策を改善しなければなりません。

第37条 条約や協定の遵守と尊重

アイヌ民族は、締結した文書やそれに準じる取決めを国家に守らせる権利をもっています。権利宣言のいかなる条文によっても、こうした取決めで保障された権利が縮小されたり、消減させられたりすることはありません。

Photo by Hirata Tsuyoshi

パート8 実行する[第38~42条]

第38条 国家の履行義務と法整備

この権利宣言に沿ってアイヌ民族と日本政府が協議をした結果は、既存の法律の改正や新たな立法などで対応する義務が日本政府にはあります。

第39条 財政的・技術的援助

アイヌ民族には、その先住民族の権利を実現するため、日本政府ばかりでなく、外国や国際機関から援助を受けることができます。

第40条 権利侵害に対する救済

アイヌ民族と日本政府などとの間に権利侵害に関する争いが起きた場合には、あいまいな話し合いではなく正当で公正な手続き、時間の引き延ばしではなく迅速な決定で、救済を受けることができます。

第41条 国際機関の財政的・技術的援助

国連機関、その専門機関、その他の国際機関は、財政援助や専門家の派遣などの形で、この権利宣言の実現に貢献します。また、自らが関わる問題への先住民族の参加を支援します。

第42条 宣言の実効性のフォローアップ

アイヌ民族に対し、先住民族としての権利保障が進められているかどうかは国連および国連機関(さらに日本政府自ら)が監視や追跡調査を行い、権利の保障を促進します。

Photo by Hirata Tsuyoshi

パート9 国連宣言を理解する[第43~46条]

第43条 最低基準の原則

本権利宣言に書かれている権利は、先住民族に最低の基準を認めるもので、アイヌ民族と日本政府との交渉によって、ここに書かれた以上の権利保障がされることを歓迎します。

第44条 男女平等

先住民族の権利も、男性・女性に等しく保障されます。

第45条 既存または将来の権利の留保

権利宣言に書かれた条文によって、現在保障されている先住民族の権利や将来保障されることがある先住民族の権利が、縮小されたり、消減させられたりすることはありません。

第46条 主権国家の領土保全と政治的統一、国際人権の尊重

この宣言の条文は、国連憲章に反する活動の権利を認めたものではなく、主権国家の分断などを奨励するものと解釈してはいけません。また、宣言が定めた権利行使の土台にはすべての個人の人権の尊重があり、その一方でこの権利行使を制限するには、民主主義の下で公正ですべての者の必要な要求に関し、厳格に法律や国際法の規定が必要です。各条文は、正義、民主主義、人権、平等、非差別、よき統治などの原則に従って解釈されます。

以上

(再構成:八木亜紀子、加筆訂正:上村英明、写真:平田剛士)

UNDRIPは、「前文」「本文」に大きく分けられます。「前文」には、宣言が採択されるに至った背景や思想、宣言を貫く精神などが書かれており、各条文の解釈を行う場合に重要な部分ですが、ここでは「本文」にある46の条文のみをご紹介しています。すべてをお読みになりたい場合は、以下をご参照ください。

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