5月~9月 講座開催中 「先住民族の森川海に関する権利6―自然環境と先住民族の主権をめぐって」

「国連ビジネスと人権の作業部会訪日調査最終報告書に対する日本政府のコメント」(2024年)から

「ビジネスと人権の作業部会」が国連・人権理事会に提出した訪日調査最終報告書(文書番号A/HRC/56/55/Add.1 )に対し、日本政府は2024年5月24日、同理事会にコメント(文書番号A/HRC/56/55/Add.2)を提出しました。

このうちアイヌ民族にかかわるパートの日本語仮訳を以下に引用します。段落前の数字は段落番号です。

引用元
Report of the Working Group on the issue of human rights and transnational corporations and other business enterprises on its visit to Japan, Comments by the State, Human Rights Council Fifty-sixth session, 18 June–12 July 2024
https://docs.un.org/en/A/HRC/56/55/Add.2
2025/09/16閲覧

翻訳・鈴木漣、監訳・上村英明/森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト

もくじ

C. アイヌの人々(Ainu Persons)

9. 日本政府は、アイヌ民族が民族の誇りとともに生き、その誇りが尊重される社会の実現のために、包括的かつ効果的なアイヌ政策の促進を進めており、それによって全ての市民がお互いの人格や個性を尊重する調和的な社会の実現を支援している。

アイヌ生活実態調査[第41段落]

10. 第41段落における「アイヌの国勢調査が存在しないために、差別が可視化されたり数値化れることがなくなっている」との言及に関して、北海道政府は「アイヌの人々に対する差別」へのアンケートを含む、北海道在住のアイヌの人々のための「北海道アイヌ生活実態調査」を数年おきにおこなっている。(最新の調査は2023年9月より実施されている。2017年には1万3118人のアイヌの人々が調査に回答している。)

水産資源保護法第28条の合理性[第42段落]

11. 第42段落において、水産資源保護法が「アイヌの人々のさけを獲る伝統的な漁業権を十分に考慮していない」と述べられている。しかしながら、日本政府はアイヌ文化を尊重するために以下の行動をとってきた。

  1. さけは内水面で孵化し、その稚魚は海へと移動する。4年後には産卵のために元の川へ戻り生涯を終える。遡上中のさけが産卵前に捕獲されてしまうと、川でのさけ資源の再生が止まり、資源全体も最終的には枯渇してしまうでしょう。加えて、さけは遺伝的に局在型の魚であり、特定の地域や範囲での捕獲の禁止だけでは、さけの保護というこの法律の目的の達成には不十分である。それ故、水産資源保護法の目的は水産資源の保護培養を図り、且つ、その効果を将来にわたって維持することにより、漁業の発展に寄与すること(第1条)である。この目的のために、同法第28条では「淡水域においては、遡河魚類のうちさけを捕獲あるいは採取してはならない」と規定している。さけの生物学的特徴とその資源の日本における重要性の観点から、この法律は淡水域において地域と範囲の制限を設けずにさけを採捕することを原則禁じている。
  2. 他方で、水産資源保護法第28条では、漁業の免許に加え、禁止に対する例外として、都道府県知事の認可を以て内面水でのさけの採捕を許可している。北海道では、知事による北海道漁業調整規則第52条の許可の下、試験研究、 教育実習、増養殖用の種苗(種卵を含む。)の供給(自給を含む。)又は内水面における伝統的な儀式あるいは漁法の伝承及び保存並びにこれらに関する知識の普及啓発のために、内水面においてさけを採捕することができる。北海道知事の認可を得れば、アイヌ民族は川やその他の内水面において、試験研究、 教育実習、増養殖用の種苗(種卵を含む。)の供給(自給を含む。)又は内水面における伝統的な儀式あるいは漁法の伝承及び保存並びにこれらに関する知識の普及啓発のために、さけを採捕することができる。さらに、アイヌ施策振興法第17条では、アイヌ民族が儀式の伝承及び保存並びにこれらに関する知識と啓発のために内水面においてさけを採捕する認可を得るための手続きを、一般的な特別採捕許可を得るための手続きに比して、簡素化している。
  3. 海におけるさけの主要な漁業である定置漁業は、漁業権に基づいてのみ行われるため、定置漁業を行うには、都道府県知事より免許を取得しなければならない。北海道では、設置する網の数と期間などさけ資源の保護のために必要な制限またさけの再生産のため親魚の枯渇の危険性がある場合には親魚を守るために必要な措置の履行義務が定置漁業免許の取得条件が盛り込まれている。

国有林の管理[第43段落]

12. 国民の共有財産である国有林野は、(山地災害の防止、自然保護、二酸化炭素吸収源、地域振興、水源涵養など森林の多面的機能)国民の要望と期待に基づき、さまざまな主体と協同で管理されている。

13. これらの状況の下、アイヌ文化の振興のために国有の林野を利用する努力がなされている。具体的には、アイヌ施策推進法第16条、「国有林野をアイヌにおいて継承されてきた儀式の実施その他のアイヌ文化の振興等に利用するための林産物の採取に共同して使用する権利を取得させることができる」と規定に基づき、アイヌ民族は、もし希望すれば、国有林野の林産物を採取する認可を得ることができる。「アイヌ共用林野制度」は、アイヌ民族が望んだ場合に限り、アイヌ民族が国有の林野において林産物を採取することを許可する特別措置である。2024年3月末までに、アイヌ共用林は札幌、釧路、千歳、新ひだかにおいて設置され、白老と平取町にも設置予定である。

14. 契約の下にアイヌ民族の共用林としてアイヌ民族の権利が設定されたにおける国有林野の、アイヌ民族以外の者への賃借には、アイヌ民族の同意が必要である。(国有林野管理経営法施行規則第14条3項)

15. 加えて、再生可能エネルギー施設への国有林野の賃借に関しては、国有林野の賃借に際し、関係自治体の長による認可と関係地域住民の意見を反映する努力が必須となる。過去には、アイヌ共用林野のいかなる場所も再生可能エネルギー施設に賃借されたことはなく、アイヌ民族が参加する団体からの具体的な意見も得られたことがない。

16. 自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)に関して、地域コミュニティとの共同での再生可能エネルギーの導入を確保するため、日本政府はビジネス規制を強化している。この規制では、FIT(固定価格買い取り)制度及びFIP(フィードインプレミアム)制度の下での証明書の発行条件として、地域住民に対してプロジェクトの詳細を事前に通知する要求が含まれる。


引用元
Report of the Working Group on the issue of human rights and transnational corporations and other business enterprises on its visit to Japan, Comments by the State, Human Rights Council Fifty-sixth session, 18 June–12 July 2024
https://docs.un.org/en/A/HRC/56/55/Add.2
2025/09/16閲覧

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