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国連ビジネスと人権の作業部会「訪日調査ミッション終了ステートメント」(2023年)から

2023年夏、国連・人権理事会に属する「ビジネスと人権の作業部会」議長のダミロラ・オラウィ(Damilola Olawuyi)氏、委員のピチャモン・イェオパントン(Pichamon Yeophantong)氏ら専門家チームが、調査のために日本を訪れました。人権理事会が採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年、UNBPs)に基づいて、日本国内の現状を把握し、評価することを目的とする調査です。12日間にわたる調査を終えたチームは8月4日、東京で記者会見を開き、声明文を発表しました。

調査チームは声明の中で、わざわざ「リスクにさらされているステークホルダー集団/先住民族」とひとつの項を立てて諸課題に言及するなど、繰り返し「先住民族」「アイヌ」の言葉を使っています。以下に、その部分を抜粋します。

なお、この声明文は全文が日本語に訳され、国連人権高等弁務官事務所のホームページで公開されています。下記の引用もこの日本語版を利用しました。(平田剛士)

もくじ

抜粋1 ステークホルダー集団と関心のある課題領域

作業部会はさまざまなステークホルダーから、その深刻度や認知度の点で多種多様なビジネス関連の人権問題に関する情報提供を受けました。作業委員会はこのステートメントで、協議中にも長く議論された次のテーマ別課題分野に関する暫定的評価を行います。その分野とは、ダイバーシティとインクルージョン、差別とハラスメント(ヘイトスピーチを含む)、労働関係の人権侵害、先住民族の権利、バリューチェーンの規制のほか、健康に対する権利、きれいで健康的かつ持続可能な環境を得る権利および気候変動に対するインパクトです。

特に、女性やLGBTQI+、障害者、部落、先住民族と少数民族、技能実習生と移民労働者、労働者と労働組合のほか、子どもと若者については、特に明らかな課題が浮かび上がりました。しかし、これだけで全部ではないことは強調しておくべきです。作業部会は、セックスワーカーの搾取やホームレスに対する差別などの問題についても、情報を得ています。

抜粋2 リスクにさらされているステークホルダー集団/先住民族

アイヌの人々を先住民族として認識し、2019年にはその文化と遺産を守り、再活性化するねらいで「アイヌ施策推進法」が成立したことで、その権利の認識に向けたプラスの動きが生まれました。しかし、アイヌの人口調査は行われていないため、その差別が可視化されたり、語られたりすることはなく、アイヌの人々は今でも、教育や職場で差別を受けています。よって、差別のない権利と機会均等を確保するための措置が必要です。

例えば、政府は観光を通じ、アイヌの人々に関する文化的教育を促進するための取り組みを行っていますが、作業部会は、民族共生象徴空間(ウポポイ)でアイヌ労働者が人種的ハラスメントや心理的ストレスを受けているとの報告を懸念しています。さらに私たちは「水産資源保護法」第28条により、アイヌの人々が先住民としての漁業権を正当に考慮されることなく、他の日本人と同様、ごく一部の例外を除き、内水面でのサケの漁獲を禁じられているとお聞きしました。私たちはまた、再生可能エネルギー部門のものを含むさまざまな開発プロジェクトで、アイヌの人々の自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)が取り付けられていないという情報も得ているため、こうしたプロジェクトがアイヌの人々とその権利に悪影響を及ぼすのではないかとの懸念を抱いています。

先住民族の権利に関する国連宣言」に定めるとおり、アイヌの人々の権利を守るうえで、政府と企業がFPICを確保することは不可欠です。私たちは政府に対し、土地と天然資源に対するものを含め、アイヌの集団的権利を認めるよう強く促します。

抜粋3 テーマ別分野/健康、気候変動、自然環境

作業部会は訪日調査中、健康に対する権利をはじめとする人権に事業活動が及ぼす影響と、クリーンで健康的かつ持続可能な環境との間に関連性があることに対する認識が、多くのステークホルダーの間で依然として弱いことを確認しました。私たちはまた、政府と企業がゼロカーボン経済への移行を確保するために、十分な努力を払っていないことも懸念しています。私たちはこれらのステークホルダーに対し、気候変動対策への取り組みを加速するとともに、特に移行鉱物の調達において、公正な移行に向けた人権上の考慮点に配慮するよう呼びかけます。

作業部会は、UNGPsと人権にも言及する「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンス入門」など、環境省による環境デュー・ディリジェンスの取り組みを歓迎します。企業の中にも、人権・環境デュー・ディリジェンスへの配慮を盛り込んだサプライヤー規範を設けるなどして、期待できる措置を講じているものがあります。しかし、こうした動きにもかかわらず、特に先住民族に関し、環境問題に対するステークホルダーの懸念に取り組む政府のメカニズムは依然としてありません。

抜粋4 結語

日本でUNGPsの履行を進めることは、地域的、世界的に、ビジネスと人権分野におけるリーダーとしての日本の評判を固めるだけでなく、国内・国外で日本企業の人権に関するプラスの影響力と競争力を高めるためにも重要です。作業部会は政府、企業および市民社会が、UNGPsとNAPに関する能力と認識を高めるため、日々取り組んでいることを高く評価します。

とはいえ、作業部会は、日本がビジネスと人権分野での官民イニシアチブで十分に取り組めていないシステミックな人権課題について、引き続き懸念を抱いています。女性や障害者、先住民族、部落、技能実習生、移民労働者、LGBTQI+の人々など、リスクにさらされた集団に対する不平等と差別の構造を完全に解体することが緊急に必要です。ハラスメントを永続化させている問題の多い社会規範とジェンダー差別には、全面的に取り組むべきです。政府はあらゆる業界で、ビジネス関連の人権侵害の被害者に、透明な調査と実効的な救済を確保すべきです。私たちは、実効的な救済と企業のアカウンタビリティへのアクセスをよりよく促進するため、日本に独立のNHRI設置を求めます。


引用元
国連人権高等弁務官事務所
https://www.ohchr.org/sites/default/files/documents/issues/development/wg/statement/20230804-eom-japan-wg-development-japanese.pdf
2025/09/11閲覧

参考

日本記者クラブ 国連「ビジネスと人権」ワーキンググループ 会見 2023.8.4

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