国際連合第17会期の人権理事会は2011年3月21日、「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために」と題する文書を採択しました(A/HRC/17/31)。
この文書は、2006年から国連で「人権と多国籍企業及びその他の企業の問題に関する事務総長特別代表」を務めたジョン・ラギー(John Gerard Ruggie)氏がまとめた最終報告書です。
ラギー特別代表のこの最終報告書は、「指導原則への序文」と「付録・ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために」の2部構成です。どのような経緯でこの文書がつくられたのかは、「序文」が詳しく説明しています。全文の日本語訳版が国際連合広報センターのウェブサイトで公開されています。どうぞそちらをご参照ください。
文書後段の「ビジネスと人権に関する指導原則」は、国連人権理事会が2008年に採択した「『保護、尊重及び救済』枠組」(文書番号A/HRC/8/5)を実現すべく、具体的な計31の原則を列挙しています。特別代表の名を冠して「ラギー原則」とか「ラギー枠組み」とか呼ばれることもあります。略号のUNGPsは、国際連合(United Nations)と、文書の英語タイトル(Guiding Principles on Business and Human Rights)の頭文字を並べたものです。
ラギー特別代表は、「この指導原則の規範的貢献は、新た国際法上の義務を作ることではなく……どこに現在の体制で足りないところがあるのか、またいかにしてそれを改善すべきかを明確にすることである」(序文)と説明しています。
さて、文書の後段の「ビジネスと人権に関する指導原則」には、「先住民族(indigenous peoples)」の用語が3回、登場します。上記の国際連合広報センターによる日本語訳版から、その部分を抜粋します。(平田剛士)
「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011)から
引用1 Ⅰ.人権を保護する国家の義務
B.運用上の原則
一般的な国家の規制及び政策機能
3.保護する義務を果たすために、国家は次のことを行うべきである。
- 人権尊重し、定期的に法律の適切性を評価し、ギャップがあればそれに対処することを企業に求めることを目指すか、またはそのような効果を持つ法律を執行する。
- 会社法など、企業の設立及び事業活動を規律するその他の法律及び政策が、企業に対し人権の尊重を強制するのではなく,できるようにする。
- その事業を通じて人権をどのように尊重するかについて企業に対し実効的な指導を提供する。
- 企業の人権への影響について、企業がどのように取組んでいるかについての情報提供を奨励し、また場合によっては、要求する。
解説/段落5
人権尊重に関する企業への指導は、結果として何が期待されているのかを示し、最良の慣行の共有を促進すべきである。そこでは、人権デュー・ディリジェンスを含む適切な手法や、先住民族、女性、民族的または種族的少数者、宗教的及び言語的少数者、子ども、障がい者、及び移住労働者とその家族が直面する具体的な課題を理解したうえで、ジェンダー、社会的弱者、及び/または排斥問題をいかに実効的に考慮するかについて助言すべきである。
引用2 Ⅱ.人権を尊重する企業の責任
A.基盤となる原則
12.人権を尊重する企業の責任は、国際的に認められた人権に拠っているが、それは、最低限、国際人権章典で表明されたもの及び労働における基本的原則及び権利に関する国際労働機関宣言で挙げられた基本的権利に関する原則と理解される。
解説/段落3
状況に応じて、企業は追加的な基準を考える必要があるかもしれない。例えば、企業は、特別な配慮を必要とする特定の集団や民族に属する個人の人権に負の影響を与える可能性がある場合、彼らの人権を尊重すべきである。この関係で、国際連合文書は先住民族、女性、民族的または種族的、宗教的、言語的少数者、子ども、障がい者、及び移住労働者とその家族の権利を一層明確にしている。さらに、武力紛争状況では、企業は国際人道法の基準を尊重すべきである。
引用3 Ⅲ.救済へのアクセス
B.運用上の原則
国家基盤型の司法的メカニズム
26.国家は、企業活動に関連した人権侵害に対処する際に、国内の司法メカニズムの実効性を確保するため、救済へのアクセス拒否になるような法的、実際的及びその他これに関連するような障壁を減らすための方策を考えるなど、しかるべき手段をとるべきである。
解説/段落3~4
ビジネスに関連した人権侵害に関する事案が当然取り上げられるべきにもかかわらず、これを妨げるような法的障壁が生じるのは、たとえば次の場合である。
- 先住民族及び移民など特定の集団が広く市民に適用されるのと同レベルの人権の法的保護から除外される場合。
- 国内の刑事法及び民事法で、法的責任を企業グループのメンバー間で振り分ける方法により、しかるべき責任の回避を容易にさせる場合。
- 当該申し立ての本案に関わりなく、申立人が企業の受入国において裁判拒否に会い、本国の裁判所にもアクセスできない場合。
引用元
国際連合広報センター「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために」2025/09/11閲覧
https://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/

