上村英明 森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト代表
2023年2月23日、プロジェクト全体会合でのスピーチから。
本日はたくさんの発表の予定があるようですから、短くごあいさつ申し上げたいと思います。お忙しいところ、今日は森川海研究プロジェクトの全体集会にご参加いただき、ありがとうございます。思い起こせば去年、2022年6月にこのプロジェクトは正式に動き始めました。そのキックオフ・ミーティングでもお話したような気しますが、時間をかけてゆっくり進むこうした事業では、どういう理由で始まったのか、あるいはどういう理念で始めたのかを時々確認しておいた方がいいと思います。
まず、このプロジェクトは、アイヌ民族の先住権を「見える化」しようということを大きな理念として始まり、進めてきました。とくに「見える化」しようとしている先住権は、難しく言うと「土地の権利」「資源の権利」、やさしく言うと、森とか川とか海に関する本来アイヌ民族が持っていたなりわい、それが何だったのか、そしてそれがこの150年でどうなったのかの関係性で、それを明らかにしたい、ということです。
今日は萱野志朗さんもいらっしゃいますし、差間正樹さんも殿平善彦さんもいらっしゃるんですけれど、僕が若いころはまだ萱野さんのお父さん(萱野茂さん)とか野村義一さんとかがお元気な時代でした。社会環境としては、法律は旧土人保護法しかない、本当に厳しい時代でしたが――今が厳しくないとは言いませんが――、反面失われたもの、奪われたものが何かも肌身で感じていた時代だと思います。その点、厳しい時代でも、権利を訴えなければならない、ある意味では「リーダーとして自分がやらなくちゃいけない」という思いもいろいろな方たちがもっていらっしゃったと感じています。
それから30年、あるいは40年が経ち、時代は変わった面があります。巧みに差別は見えにくくなり、表面上をつくろう法律や政府機関も設置されました。文化活動は楽になったはずだ、と行政府は思っていることでしょう。そんな中で、アイヌの若い人たちに、先住権を考えてもらう環境はむしろ難しくなったと思います。「政府はよくやってくれているし、彼らをうまく利用した方がいい」という意見もあると思います。
そんな中、「先住権」を説明するためには、かつてと違う方法、いろんなデータを集めながら、何が奪われたのか何が否定されたのかを明らかにし、この150年の理不尽さは「こんなだったんだよ」という話を、アイヌの若い人たちにしたいと考えています。その手法でいけば、対象はアイヌの若い人たちだけではありません。入植者として「北海道」に住んでいる人、とくに若い人たち、道外に住んでいる人たちも含めて、共有化していくことが必要であり、それができるプロジェクトとして、この活動が始まりました。
そして、準備から数えてもほぼ1年、初年度はみなさんもお感じだと思いますが、ほんとに手探り状態でした。幸いアメリカのファンドの支援をもらうことができたんですけど、小泉(雅弘事務局長)さんも私もあんまり大きなおカネを動かしたことがないので(笑)、お金をどう使ったらいいのかという四苦八苦の中、いろいろな方に支えていただきました。よくわからないという中で、有効に使っていきたいと頑張ってきましたが、今回は、その成果報告の重要な機会だと思います。この全体会議では、プロジェクトに関わるいろいろな活動分野での進捗状況をみなさんに報告し、また報告していただきながら、運営チームを含めて、これから先、どういうふうな活動を展開していったらいいのか、みなさんで自由に意見交換・情報交換したいと考えています。改めて、みなさんよろしくお願いします。ありがとうございます。