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北海道ウタリ協会 2000年11月 先住民族の権利宣言草案に関する第6回人権委員会作業部会声明

議長、発言の機会を与えていただきましたことに対し、心から感謝申し上げます。

日本の先住民族組織である北海道ウタリ協会は、これまで同様、各国の先住民族団体とともに、この権利宣言草案に賛意を表明しており、一切の修正なしで採択されることを望んでいます。

草案前文と各条項にある先住民族の諸権利が確立されるとともに、第8部第37条から第41条の5つの条項については、国家及び国連体系が本宣言の条項を十分に実行させるためのものであることから、我々、先住民族にとって大変重要な条項であると考えております。

日本政府は、1995年11月20日の人権委員会において「先住民権利宣言案に対する日本政府のコメント」として、ブラジル連邦共和国代表が表明した発言を支持し、第38条に関して「国連及び国連の専門機関において作成する「宣言」は、法的拘束力がないことを念頭に置いて作成すベきである。従って、本宣言案のように国家に対し、宣言実施のための効果的措置を執ることを要請したり、国家の義務を規定することは適当ではない。」また、「法の下の平等の視点からさらなる明確化が必要である。」としており、この内容で第38条の規定を定めることについて異議を表明しております。

北海道ウタリ協会としては、宣言が採択されたときに速やかに全世界の先住民族に対し効果的な対策が実施されるべきと考えております。

また、「国際先住民の十年」もいよいよ後期5年に入ったことから、日本政府においては、この権利宣言の採択に向けて理解と努力をいただくとともに、早期に人権救済機関の整備や体制づくりなどを進めるべきと思います。

具体的には、日本国内の政府から独立した人権救済機関の制度化及び1989年のILO総会において採択された「独立国における原住民・種族民に関する条約(第169号)」及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」の「選択議定書」を早期に締結するとともに、すでに批准している「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約)」締結の際に同条約第4条(A)および(B)に付した留意の撤回を含め、「子ども(児童)の権利条約」とともに具体的な取り組みを推進していただきたいと思います。

1997年にアイヌ文化を振興することを主眼とする「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律(アイヌ文化振興法)」が制定されてから三年目を迎え、アイヌ文化の復活や振興、民族としてのアイデンティティの高まりなどには一定の効果は認められますが、経済的自立には繋がっておりません。

日本政府の「人種差別撤廃条約に対する第1回・第2回定期報告書(1999年1月)」においては、1993年までの「北海道ウタリ生活実態調査」が基礎資料として引用されておりますが、この定期報告の後の1999年10月に新たな生活実態調査が実施されています。この調査は北海道内に居住するアイヌに限られ、かつ表面的であり十分に実態を把握しているとは認められませんが、この調査の結果においても、憲法で定めている最低限の生活を保障するための生活保護を受けているアイヌは、一般の二倍を越えており、依然として生活格差は大きい状況にあります。また、教育の面においても、高等学校卒業後の大学進学率は一般の半分に満たない状況にあります。さらに、アイヌに対する差別については、学校や結婚、職場においてむしろ多くなっていることが報告されております。

1974年以降、7年ごとに4次にわたる「北海道ウタリ福祉対策」が地方自治体の予算措置として進められてきておりますが、法律に基づく民族政策として確立していないことなどから、根本的な解決には結びついていません。

1997年3月の『二風谷ダム事件判決』における、アイヌ民族を先住民族と認めた司法判断も定着してきており、1998年9月には日本弁護士連合会が自由権規約人権委員会に提出した「市民的及び政治的権利に関する条約に関する第4回日本政府報告書に対する選択報告」の中においても、「アイヌ文化振興法は、「先住性」に基づく社会的経済的権利を侵害したことに対する適切な保障をし、将来に向かって先住民族の文化享有権の内容として伝統的な土地・資源利用の権利を保障すべきである(一部略)」と報告しているなど、日本国内ではアイヌ民族を先住民族と認める動きが広まってきております。

1998年10月、自由権規約人権委員会において日本政府報告書の審査が行われ、カナダのヤルデン委員から「アイヌ文化振興法は、アイヌ文化の発展奨励を語ってはいますが先住民族としてのアイヌの問題はまったく無視しています。これは当然、土地権を含む先住民族の権利を伴います。この点も日本のあるNGO、日本弁護士会がたいへん雄弁に指摘しています。アイヌ民族に関して代表団から聞いたことに私は失望したと言わざるをえません」との指摘が出されております。

同年11月、同委員会において「アイヌ先住民族少数者の人々について、言語および高等教育における差別、ならびに先住地に関する権利が認められていないことに懸念を有する」ことの最終見解を採択、これを改善するよう勧告されているところであり、第5回目の提出期限である2002年10月までの日本政府の誠意ある対応を求めます。

北海道ウタリ協会は、今後とも、アイヌ文化振興法を積極的に活用しつつ、さらに日本国内外で先住民族の認知を広め、この法律の目的にもある先住民族が誇りを持って生きられる社会づくりに努力してまいりたいと思います。

このページでご紹介しているテキストは、1987年6月から2000年11月にかけて、社団法人北海道ウタリ協会(現・公益社団法人北海道アイヌ協会)が、国際連合の会議に参加して発表した声明、報告、発表・演説の全文です。社団法人ウタリ協会『国際会議資料集』(2001年2月28日発行)を底本としました(明らかな誤植を修正しています)。この資料集には英訳が併記されていますが、ここでは日本語のパートのみ転載しています。(森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト)

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