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北海道ウタリ協会 1996年10月 先住民の権利に関する第2回作業部会 声明

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「先住民族の権利に関する国連宣言草案」に関する発表/国連人権委員会先住民作業部会

議長、先住民族の権利に関する作業部会の討議に参加する機会を頂きありがとうございます。この度、私は、社団法人北海道ウタリ協会の代表の立場と責任において出席し、発表をさせていただきますことを光栄に存じます。

昨年、この第一回作業部会に北海道ウタリ協会の代表として発表を行った参議院議員の萱野茂氏は、日本の政治情勢や政府のアイヌ民族に対する新しい施策の検討状況を見極めながら、日本の国会議員に対するこの国連の宣言草案の支持の取付け、さらには外務省に草案の採択を遅らせることのないよう、より肯定的な役割を果たすよう萱野氏自身の影響力を行使すると約束したところです。

その後、本年4月には、別に資料1としてお持ちした『ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会(座長 伊藤正己 元最高裁判所判事)』報告書の内容で梶山内閣宮房長官へ答申が出されました。この報告書に関する当協会の見解と今後の方針についても同じく総会決議として資料2にまとめられていますので、後ほど目を通して頂ければと思います。

アイヌ民族の日本国内での法的位置付けや係る立法措置の取組みを通して世界各国の先住民族の国内施策の今後の整備について考えて見ますと、その国の基本的な法体系(属地主義/属人主義のどちらをとっているか)や政治情勢、経済状況などに大きく左右されることは間違いありません。日本では10年前まで「単一民族国家論」が論じられていたことから考えますと、現在、政府ではアイヌ民族に関しては一定の配慮と努力をして頂いていると考えております。しかし、日本は属地主義の法体制であることなどから、人数の少ないアイヌ民族の施策の整備には今なお法的に難しい側面があるのが現状です。

『ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会』報告書を読んで頂くと分かりますが、アイヌ民族が歴史的に独自のアイヌ語を使用してきた言語グループであったことや、同化政策の実施によりその言語を日本語のグループから使用することを妨げられたり、文化的、社会的に決定的な打撃を受けたことを認めております。これらのことを踏まえますと今後のアイヌの新しい施策については、当然集団的権利の側面などから考察されるべきものと考えます。また、一方では、北海道に居住してるアイヌだけには格差是正のために北海道ウタリ福祉対策が実施されていますが、アイヌでありながら北海道以外に居住しているものは居住地域が違うことでいまだこの福祉対策の施策が受けられないという状況があります。

アイヌ民族に関する日本の法的整備作業の様子を見ても分かるように、今後進むであろう各国内での先住民族に係る施策の整備についても、歴史的、文化的、法的、政治的要因などの影響を受けるのは明らかです。永い間不利益を被ってきた先住民族からすれば「先住民族の権利に関する国連宣言」については、出来うる限り先住民族の立場から人権伸長を促すとの理念に基づいた文案でかつ国際社会の行く末や係る条約設置を見据え国際規範の整備が実現可能となるような内容にすべきと考えます。

各国内での先住民族に関する対応や「先住民族の権利に関する国連宣言」の取りまとめに際しては、先住民族を含めた国家間の経済、政治などの相互依存関係と深く関わる問題で、切り離して考えることは出来なくなっていることから、ただ単に自国内の問題の検討に留まらず、地球的な問題として論じて頂きたいと思います。先住民族の人権は各国がどのように取り組んでいくのか、その姿勢に大きく左右されるからです。このことから国連宣言案の集団的権利に関する文案の作成については是非とも先住民族に集団的権利を認め、自国の問題の解決だけに留まることなく積極的に先住民族の人権を守っていくように、英知を寄せて取り組んで欲しいと考えます。また、そのためには個人の権利との整合性が必要になることから先住民の概念をより的確なものにしていくことが必要とも考えます。

私達は、日本政府と国民との合意を大切にしながら「先住民族の権利に関する国連宣言」に盛り込まれる先住民族の権利内容がより良いものとなるよう、アイヌ民族に関する情報提供などをとおして、貢献できれば幸いと考えております。議長ならびに会場の皆様に対し、貴重な時間を提供頂きましたことに心からお礼申し上げ発表を終わらせて項きます。

パセノポ イヤイライケレ/ありがとうございます。

このページでご紹介しているテキストは、1987年6月から2000年11月にかけて、社団法人北海道ウタリ協会(現・公益社団法人北海道アイヌ協会)が、国際連合の会議に参加して発表した声明、報告、発表・演説の全文です。社団法人ウタリ協会『国際会議資料集』(2001年2月28日発行)を底本としました(明らかな誤植を修正しています)。この資料集には英訳が併記されていますが、ここでは日本語のパートのみ転載しています。(森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト)

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