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北海道ウタリ協会 1993年7月 第11会期・先住民に関する国連作業部会に対する声明

敬愛するダイス議長

親愛なる世界の先住民の皆様、ならびに関係者の皆様

私達、アイヌ民族が本年もこの先住民に関する国連作業部会で発言する機会を得ることができましたことに心から喜びそしてお礼申し上げます。

先住民族の文化、宗教そして社会的、経済的状況の多様性ならびに歴史的過程の中で国際社会に最も無視されかつ脆弱な人間集団としての共通性は、1993年の世界の先住民の国際年の制定により、ようやく世界の人々の共通の刮目の事項と成りつつあります。

また、この「国際年」に先立ち、私達先住民の仲間であるグアテマラのリゴベルタ・メンチュ女史がノーベル平和賞を受賞し、国際連合の親善大使として国内外で御活躍されていることは、心より嬉しく、同じく世界の人々の関心をひき、理解を促進してくれるものと考えております。

今後とも御健全で御活躍をされんことを祈念いたします。

さて、アイヌ民族については世界の先住民族の皆様の中で、主に次のような3つの特質を持っております。

①アイヌ民族は歴史的な経緯と東西冷戦の狭間で自らの占有領域を分断され、かつ強制移住ならびに労働の搾取等に伴う社会経済の崩壊を余儀なくされ、現在も日口2国間で係争中の「北方領土」に関する問題が国際社会で認知されているそのものの当該先住民族であること。

②アイヌ民族が属する日本国は1億2千3百万人の人口を擁し、相対的にアイヌ民族は極々少数の数万人のグループであること。

③日本国は、国土面積の約22%の北海道(アイヌモシリ/アイヌの歴史的占有領城の一部)をその領土に取り込み強力な移住・開発政策を基盤に強引な同化政策を押しつけ、あわせてその国内体制の変遷を通じて世界でも稀にみる急激な経済発展を成し、経済的イニシアチブを得た国であること。

このことを皆様に御理解していただいたうえで、今年もこの作業部会の審議の目的に資するために、日本国の先住民族アイヌの現状と立場ならびに提言を簡潔に発表させていただきたいと思います。

なお、発表の内容に関する客観的な情報は時間の都合上配布の資料で補完していただきたいと考えております。

◎日本国におけるアイヌ民族の近年の状況

〈少数民族として〉

1980年の市民的及び政治的権利に関する国際規約の第27条に関する日本政府の国際連合への報告書では「本規約に規定する意味での少数民族はわが国に存在しない」としておりました。「日本は単一民族国家だ」とアイヌ民族の存在を否定した発言をする当時の首相がいたり、公的教育で国中の子供たちが使用する学校の教科書も日本は単一民族国家であると記し、アイヌ民族の存在を認めないものとして教育しておりました。

1991年の同国際規約の第27条に関する国際連合への報告では、国内での少数民族の定義を定めたうえで、その定義に即して「本条との関係で提起されたアイヌの人々の問題については、これらの人々は、独自の宗教及び言語を有し、また、文化の独自性を保持していること等から本条にいう少数民族であるとして差し支えない」としました。

実は残念ながら、日本政府は1991年まで、過去の同化、統合主義の歴史の過程からアイヌの民族としての存在を位置づける考え方の基準すら持ちえていなかったのです。

1992年の日本で使用されている小中学校、高等学校の教科書には政府の見解の変更からか、民族としてのアイヌが位置づけられ、単一民族国家の記述は消え去りました。

しかし、現在もなお関係者のアイヌに関する認識が乏しいことから教科書の記述の誤りが歴史、文化、現状認識等に顕在されます。

〈先住民族として〉

1992年12月10日、北海道ウタリ協会の理事長野村義ーは、世界の先住民の国際年の開幕式典に出席し、演説をする名誉に浴しました。

この出席は、日本のアイヌ民族にとって大きな意味を持つことになりました。それは国際連合等が進めている先住民族に関する種々の活動の当事者であると日本政府と国民が認めざるを得ない契機となったからです。

ただし、現時点では日本政府はアイヌ民族を少数民族とは認めているものの先住民族とは認めておりません。(貸料1参照)

その理由は、かねてから当協会や北海道、北海道議会等が政府に要望しているアイヌ民族に関する新法制定要求(貸料2、3参照)が先住民族の権利に基礎をおいて考えているからだと考えます。

その証左として国会の議事録と私達の法律制定活動を配布資料に添付しました。

アイヌを少数民族として認めることに時間がかかったと同じく、国内での先住民族の定義、即ち国内法体系と国際連合で準備されている先住民族に関する権利宣言の成り行きと、さらにアイヌ民族の要望との整合性等に苦慮しているからです。

アイヌ民族が先住民族である事実は厳然としております。国立民族学博物館(大阪)の館長や歴史学の学者で構成される組織等が明言していますので、この場では多くは語らないことにいたします。特に象徴的なものとして1992年の日口の2国間の合意により作成された「日露間領土問題の歴史に関する共同作成資料集」は、アイヌ民族が先住民族であることを前提として出来あがっているものであることだけを述ペておきます。

◎国際社会での日本政府の先住民族に関する取組み

1990年12月18日、第45回国連総会の世界の先住民のための国際年の宣言決議は、日本政府も賛成票を投じました。1991年からは私達の組織から要望した「先住民のための国連任意基金」への日本政府からの拠出について2万ドルを継続して対応していただけるようになり、さらに1993年の「世界の先住民のための国際年のための国連任意基金(目標額50万ドル)」へ5万ドルが用意されました。

この政府の対応の姿勢は、額の多少は別として一定の評価をしており、また感謝もしております。

先住民にとって必要な資金等の拠出の継続と増額については私達の組織は、日本政府に対しさらなる理解を求めていきたいと思います。

この会議場に届けられた「アイヌモシリ――民族文様から見たアイヌの世界――」の図録は、私達の要望に国立民族学博物館が応えてくれて希えられたものです。

◎日本国内での国際先住民年の取組み

このことについては、アイヌ民族を先住民族として正式に認めていないことから、国内での取組みは特別な予算をもうけることは難しさがあったらしいのですが、例年の既存のアイヌ以外の文化関連予算等を置きかえることにより、国ならびに地方公共団体で要望に対する努力(国立劇場での文化公演、国立、地方公共団体立の博物館展示、国内各地でのアイヌ古式舞踊の紹介等)をしていただいていると認識しております。

ただし、文化関係のソフトな側面を強調しがちであるため、今後は、この国際年をスタートの年として法的、歴史的等の位置づけと具体的対策が進められるべきであると考えております。

◎北海道ウタリ協会からの提言

北海道ウタリ協会理事長野村義一の開幕式典での演説内容には7つの骨子がありました。

その内容は次のとおりです。

特に、4、5、6、7については、先住民族の権利宣言や今後の取組みに重要であると考えますので読み上げたいと思います。

  1. 12月10日は、数年前までは日本政府に民族としての存在を認知されていなかったアイヌ民族が、国連において公式に認知されたことを記念する日となること。
  2. 日本政府による北海道開発とそこでの同化政策によって、先住民族であるアイヌ民族が民族としての基盤を奪われてきた歴史的経緯についての簡単な紹介。
  3. 過去についての非難にとどまるのではなく、将来に向かって、日本政府にアイヌ民族との「新しいパートナーシップ」を求め、話し合いのテーブルにつくよう招待すること。
  4. 日本企業の活動や政府の対外援助などが先住民族の生活に及ぼしている影響にも目を向け、日本政府はアイヌ民族のみならず、世界の先住民族と新しいパートナーシップを模索することを求めること。
  5. 国連に対し、エスノサイドから先住民族の権利を保障するための国際基準の設定を急ぐよう要請すること。
  6. 国連に対し、先住民族の権利状況を監視する国際機関の設置を求めるとともに、そのための財政措置を加盟国に要請すること。
  7. アイヌ民族は「民族の自決権」を含め、国連で議論されている先住民族の権利は、総て話し合いを通じて日本政府に要求するが、これは、「国民としての統一」や「領土の保全」などの原則を脅かさない「高度な自治」の要求であること。

先住民族の将来を考えるとき、とかく世界の人口、食料、環境、南北問題、あるいは最も緊急を要する問題等の地球的課題の陰にかくれがちになってしまう現状があります。

なぜなら、これら諸課題はおしなべて先住民族問題を包含したり関連しているからでもありますが、かといって先住民族の問題を別の問題にすり替えたり統合したりしてはいけません。

最も無視され、かつ脆弱な先住民族の諸問題の解決のためには、1993年の国際年のみに滞まらず、さらに6月のウィーンの世界人権会議の宣言にもり込まれたように1994年からの先住民族の10年を設定すべきであることを強く望みます。

アイヌ民族が1987年からこの作業部会に継続して出席し続けたことが、国際社会環視での間接的なモニタリングの意味を持ち、世界の人々や日本政府の理解も促進してきたという効果を導いたことも考えあわせるからです。

今後とも、皆様の御支援をいただきながら、世界の人権思想の高揚や先住民族の権利の確立のために努めていきたいと思います。どうもありがとうございました。

このページでご紹介しているテキストは、1987年6月から2000年11月にかけて、社団法人北海道ウタリ協会(現・公益社団法人北海道アイヌ協会)が、国際連合の会議に参加して発表した声明、報告、発表・演説の全文です。社団法人ウタリ協会『国際会議資料集』(2001年2月28日発行)を底本としました(明らかな誤植を修正しています)。この資料集には英訳が併記されていますが、ここでは日本語のパートのみ転載しています。(森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト)

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