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北海道ウタリ協会 1992年7月 第10会期・先住民に関する国連作業部会に対する声明

もくじ

メッセージ

我々が敬愛するダイス議長さん

親愛なる世界の先住民族のみなさん

私達、アイヌ民族が、今回もこの様にして国連作業部会の場に出席し、私達の活動状況を御報告できる機会を得ましたことに深い喜びの気持ちで一杯です。

今、世界各地で、差別、抑圧などからの自由を求めて戦っておられる先住民族の方々に対し心から敬意を表しますとともに、ダイス議長をはじめ皆様方からアイヌ民族に対し、いつも変わらぬ御理解と御支援をいただき深く感謝申し上げます。

咋年は、特に、ダイス議長さんをはじめ人権小委員会の委員の方々には、大変お忙しい中をわざわざ日本にお越しいただき、アイヌ民族への深い御理解と心暖まる御助言を賜り、更には、アイヌ民族に関する法律制定について心強い御支援をいただき誠にありがとうございました。心からお礼申し上げます。

既に検討に着手されている「先住民族の権利に関する世界宣言」については、来年の「世界の先住民のための国際年」に照準を合わせ、必要な作業を着実に進められ、全ての先住民族の賛同を得て採択されることを心から期待しております。

今後とも、皆様の御支援をいただきながら、アイヌ民族が国連先住民会議の一員として、世界の人権思想の高揚や民族の権利回復のために努めさせていただきたいと思います。

住民の人権擁護・促進に関する経過報告

私達は、これまで何度も、独自の宗教や文化の下に、主に狩猟・漁撈・採集によって生活していたアイヌ民族が、日本国家により何の協議もなく一方的に、土地を奪われ、民族の自決権や、言語、宗教を封じられ、同化を強制され民族の尊厳や権利が、著しく踏み躙られている実態について御報告申し上げました。

私達は、アイヌ民族が多年にわたり、いわれのない人種差別により教育、社会、経済などの諸分野で基本的人権が著しくそこなわれてきたことから、日本政府に対し、差別の絶滅を基本理念とする「アイヌ民族に関する法律」の制定を求めてきました。

しかし、日本政府は私達のアイヌ新法制定の求めに対し、政府部内に新法問題検討委員会を設けてから既に2年半が過ぎたにもかかわらず、この間、どのような検討をしてきたのか、また制定の目途を何時においているのかなどについて全く明らかにしておりません。

こうしたことから私達は、アイヌ民族の置かれている立場や新法制定の趣旨について、広く国民の理解を得て大いに世論を喚起するため、北海道各地及び道外主要都市におけるアイヌ民族を理解するための集いなどの啓発活動を積極的に推進したほか、関係政府機関、全国会議員、各政党等に対しアイヌ新法早期制定促進を働きかけてきました。

1. アイヌ新法早期制定・東京アピール行動

特に本年3月、初めての試みとして北海道内各地から多くのアイヌ民族の代表が東京に出向き「アイヌ新法早期制定・東京アピール行動」を実施しました。

このアピール行動では、東京近辺在住のアイヌや支援者も加わり、約500名にも上る多数が参加し、「アイヌ民族に関する法律」の早期制定を求める「総決起集会」や国会議事堂周辺における街頭デモ行進を実施するとともに、北海道選出の各政党国会議員の紹介による衆議院・参議院の両議長に対する請願を行いました。

<請願要旨>
①政府の新法問題検討委員会における新法制定審議を1992年中に終らせ、1993年の「国際先住民年」にアイヌ新法を制定すること。
②アイヌ新法制定を所管する省庁を碓定させ、具体的なアイヌ民族政策を早急に検討すること。
③1993年の「国際先住民年」の政府窓口を決め、国連事業等の国際協力とともに、国内啓発を積極的に推進すること。
(注:この度、外務省国際連合局人権難民課が、政府の窓口に決まりました。)

このようなアピール行動が、国政の膝もとで実施され、大きな盛り上がりを見せ、マスコミでも大きく取り上げられ、国民に対する啓発に効果的であったと考えます。特に政府機関関係者にとって、私達が直接こうした行動に出たことに驚きを感じたようであり、この点の効果も相当あったと考えます。

2. 日本政府の新法問題検討委員会における意見陳

先ほども述べたように、日本政府のアイヌ新法制定の取組については、先行き不透明であり、真剣に検討がされているのか疑問視せざるを得ないのです。

しかし、咋年のダイス議長等から日本政府に対するアイヌ新法制定要請や、全国的な啓発活動の展開、更には先ほど申し上げた東京アピール行動など、世論の大きな動きに刺激されたからなのか、政府は、本年6月、新法問題検討委員会でようやくアイヌ民族から直接、新法制定に関する考え方や意見などを聞く機会を設けました。

この検討委員会は、東京霞が関の総理府において、関係10省庁の全担当官が出席し開催されました。

北海道ウタリ協会からは、野村理事長はじめ4名が出席し、約1時間50分にわたり、それぞれ次の事項について意見を述べました。

①野村理事長
ア 自然とアイヌ民族
イ 北方領土とアイヌ民族
ウ 北海道とアイヌ民族
工 北海道旧土人保護法の制定
オ 人権問題
カ ウタリ福祉対策
キ アイヌ新法の在り方と検討
ク 世界の先住民のための国際年
ケ ILO169号条約に対する日本政府の姿勢
コ アイヌ新法制定に対するアイヌ民族の覚悟

②笹村副理事長
地域でのアイヌの生活状況

③秋田副理事長
アイヌ語とアイヌ文化

新法問題検討委員会は、このようにして、初めてアイヌ民族から新法についての意見を聞き、今後も必要に応じて更に意見を聞く機会を設けると言っているが、新法制定を前提とした今後の取組の予定等は全く明らかにされておらず、果たして私達が望んでいる結果になるのか不安が残ります。この検討委員会は、アイヌ新法の制定を前提として検討されるのではなく、新法が必要かどうかを検討する機関であるとされているのです。

私達は、この社会からあらゆる差別をなくしアイヌ民族としての誇りを持ち、香り高い文化と自然の中での生活の営みを熱望し、一日も早い「アイヌ民族に関する法律」の制定を願っているのです。

北海道・サハリン州対話集会のアイヌ民族の参加

北海道は、日本とロシア連邦との間にある北方領土問題の解決には、ロシア連邦の国民の理解を深め、解決しやすい雰囲気づくりが重要であり、特に北方四島を含むサハリン州の住民への働きかけが大切と考え、本年6月、サハリン州との共催で「北海道・サハリン州対話集会」を北方領土返還運動の一環として実施しました。

この対話集会は、北海道・サハリン州からそれぞれ同数の司会者、バネリスト及び会場参加者によって構成され、発言時間なども全て平等にする形式で行われ、北方領土返還の具体的な問題について話し合われました。

北方領土返還運動は、従来から、北方領土の先住民族であり北方領土問題の一番の関係者であるはずのアイヌ民族が全く除外されたまま進められていますが、この度の対話集会では、サハリン州知事の希望でアイヌ民族も参加しましたが、ロシア側の方から、アイヌ民族が北方領土の先住民族であることが明言されました。

このように、北方領土問題の一方の当事者であるロシア側が、アイヌ民族を先住民族と認めているにも拘らず、日本政府は一向に認めようとはしないのである。

アイヌ民族が北方領土の先住民族であることが歴史的に見ても明らかであるにもかかわらず、日本政府は、明治以降における日本国家の同化政策の名残りをそのままにした考え方に基づき、アイヌ民族を先住民族としての位置付けをしようとしないのです。

このことは、アイヌ民族に関する法律の制定の基本的考え方を否定することにつながり、到底受け入れられるものではありません。

この度の対話集会の開催経過から見ても、北方領土返還運動におけるアイヌ民族の位置付けが明確になっておりません。今後この点からの改善要求も強めなければならないと考えます。

先住民のための国連任意基金

私達は、この基金からの経済的援助により各国先住民の団体や組織の代表の作業部会会合への出席が容易になることから、1987年以来、日本政府に対してこの基金に資金を拠出するよう要請してきました。

日本政府は、昨年から資金を拠出するようになりましたが、私達は、更に日本政府に対して、来年の「世界の先住民のための国際年」に向けて資金の拠出継続とその増額について要請しているところであります。

このページでご紹介しているテキストは、1987年6月から2000年11月にかけて、社団法人北海道ウタリ協会(現・公益社団法人北海道アイヌ協会)が、国際連合の会議に参加して発表した声明、報告、発表・演説の全文です。社団法人ウタリ協会『国際会議資料集』(2001年2月28日発行)を底本としました(明らかな誤植を修正しています)。この資料集には英訳が併記されていますが、ここでは日本語のパートのみ転載しています。(森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト)

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