10月~3月 講座開催中「先住民族の森川海に関する権利 5—アイヌ先住権を“見える化” する」

北海道ウタリ協会 1991年7月 第9会期・先住民に関する国連作業部会に対する声明

もくじ

メッセージ

我々が敬愛するダエス議長さん

親愛なる世界の先住民族の皆さん

今、世界各地で、抑圧・差別、侵略からの自由を求めて戦っておられる先住民族の方々に対し心から敬意を表しますとともに、平等と不差別の確立のために努力されているダエス議長ほか人権小委員会委員の皆様に厚くお礼を申し上げます。

今回、私たちが先住民に関する国連作業部会の場に出席し、私たちの活動をご報告出来る事は、おおいなる喜びの気持ちで一杯であります。

なぜなら、本年の5月19日から31日までの間、ダエス議長、波多野委員、アルフレッドソン氏を日本に招聘しアイヌ民族の現場をつぶさに視察して戴いたからです。

大変お忙しい中を日程と時間をさいてご来日いただき、アイヌ民族への深いご理解とご助言や、日本政府、北海道庁、関係市町村に対してアイヌ民族に関する新法制定運動への協力要請など心暖まるご支援をいただきました。

この事は、アイヌ民族の新たな歴史を造り上げました。アイヌ民族を代表いたしまして心から感謝とお礼を申し上げます。

この内容は現場報告として追って具体的にご報告致します。

「世界の先住民族のための国際年」については、先住民族が1992年を国際年とする願望は達せられませんでしたが国連が1993年を国際年として採択したことは評価するものであります。

そして、「世界先住民族宣言」を国連が先住民族の意志と願望を十分反映し、全ての先住民族の賛同を得られるようなものとして検討し、一日も早く採択することを心から期待しております。

このためには、皆様の団結と協力のもと、私たちアイヌ民族も皆様のご支援を戴きながら、国連先住民会議の一員として、世界の人権思想の高揚や民族の復権のために貢献させて戴きたいとおもいます。

世界各国の先住民族の方々から、アイヌ民族に対して深いご理解とご支援をいただき厚く感謝申し上げます。

どうも有り難うございました。

先住民の人権擁護・促進に関する経過報告

これまで、私たちは、何度も、独自の宗教、文化のもとに、主に、狩猟・漁撈・採集によって生活していたアイヌ民族が、日本国家により、何の協議もなく一方的に、土地を収奪され、民族の自決権や、言語、宗教を封じられ、同化を強制され、民族の尊厳や権利が、著しく踏み躙られている実態をご報告申し上げました。

そして、私たちが、日本国におけるアイヌ民族の復権のため、日本政府に対して、民族の権利を十分尊重した法律を制定するよう運動を展開してから既に3年を経過しようとしております。

このため私たちは、先住民族に関する作業部会の委員に日本に来ていただきアイヌに対する理解を促進し、民族としての位置付けを確保するとともに、日本国民に対してアイヌ民族の置かれている立場や法律制定の要望趣旨について理解を求める事としました。

このことを協会の総会に諮り満場一致で賛同し、国連からエリカー・イレーヌ・A.ダエス委員 波多野里望委員 そして国連人権センターのグゥドゥムンドゥール.S.アルフレッドソン上級人権担当官に正式に依頼しご快諾を戴きました。

その具体的プログラムの実施の内容は次の通りです。

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国連人権小委員会委員に、アイヌ民族の儀式や踊りアイヌ語を紹介し独自の宗教・言語・文化を持った民族として理解して戴きました。

特に、我々が視察していただきたかったのは遺骨の返還運動についての成果であります。

過去70~80年前アイヌ民族の遺骨がアイヌの医学的研究と称して、アイヌの墓地から発掘収集されました。この中には無断で発掘されたものもあると聞いております。

この遺骨は、北海道大学の医学部の研究室に研究資料の標本として長い間野晒しになっておりました。北海道・南樺太、千島列島をあわせて総体で1004体の遺骨です。我々の祖先の魂が、親族に慰霊されることもなく研究室に放置されていたのです。民族の聖地を侵害し尊厳を傷付けられました。誠に痛恨の極みです。

1982年に我々は、供養に誠意ある措置を将来にわたって取ること、希望するものに遺骨を返還することを要請しました。その後10数回の交渉の結果、遺骨の返還の確認と慰霊堂を建設して納めること、供養のために、アイヌ遺骨供養祭執行基金2100万円の創設を認めさせました。

現在は、この慰霊堂での供養祭を毎年実施しており、ダイス議長の丁重な礼拝も戴きました。

先住民族の聖地としての墓地や遺骨は絶対に保護されなければならないのです。

今後は、この様な実態をさらに調査し、適切な対応と慰霊について求めていくことが我々の課題となっております。

また、アイヌ民族の文化遺産は日本に止まらず、宣教師や研究者の手で持ち出されアメリカやヨーロッバの博物館等に散在しております。我々は、この文化遺産の里帰りを願っております。今後、この運動を展開することを検討して参りたいと考えております。

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次にダエス議長等から、ウタリ協会の総会で激励のメッセージを戴くとともに現地視察での交流を通じてアイヌ自身の民族意識の高揚と団結の促進が誇られた事です。今後は、アイヌ民族の組織の拡大につとめて参りたいと考えています。

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次に、現在、先住民族の権利に基づいて、日本政府に対して同化政策を排除し、民族の基本的人権を尊重した法律の制定を求めておりますが、ダイス議長等から政府に対する要請と北海道庁・市町村の支援を得ることが出来た事です。

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次に文化人類学者・法学者・政治家の賛同のもとに、札幌市・釧路市・東京都において「1993年の国連先住民族年に向けて」シンポジュウムを開催し、マス・メディアを活用し報道関係の理解と協力を得て、アイヌ民族の権利要求と国連における先住民族に対する動きを正しく伝え、国民の理解と協力を得た事です。特にマス・メデイアの支援体制が重要であります。

日本政府が、国連人権小委員会委員の来訪を真摯にうけとめ、アイヌ民族が要請している「アイヌ民族に関する新法」について早期に検討を進めアイヌ民族自身との協議と合意に基づいた法律を一日も早く制定されることを願っております。単一民族国家の幻影はもう捨てましょう。そして、世界の人権擁護のために、手を携えて貢献しようではありませんか。

このページでご紹介しているテキストは、1987年6月から2000年11月にかけて、社団法人北海道ウタリ協会(現・公益社団法人北海道アイヌ協会)が、国際連合の会議に参加して発表した声明、報告、発表・演説の全文です。社団法人ウタリ協会『国際会議資料集』(2001年2月28日発行)を底本としました(明らかな誤植を修正しています)。この資料集には英訳が併記されていますが、ここでは日本語のパートのみ転載しています。(森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト)

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