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北海道ウタリ協会 1990年7月 第8会期・先住民に関する国連作業部会に対する声明

アイヌ民族が先住民に関する国連作業部会の場に出席させていただいてから今年で4回目になります。

この間、ダエス議長をはじめ世界各国の先住民族の方々から、アイヌ民族に対して深いご理解とご支援をいただき厚く感謝申し上げます。

また、今、世界各地で、抑圧・差別、侵略からの自由を求めて戦っておられる先住民族の方々に対し心から敬意を表します。

国際連合は、「先住民族の権利に関する世界宣言」の具体的検討に入りましたが、この宣言が先住民族の意志と願望を十分反映し、全ての先住民族の賛同を得られるようなものとして検討されますよう心から期待します。

このためには、私たち、アイヌ民族も、皆様のご支援を戴きながら、国連先住民会議の一員として、世界の人権思想の高揚や民族の復権のために貢献させて戴きたいと思います。

先住民の人権擁護・促進に関する経過報告

これまで、私たちは何度も、北海道・千島列島・樺太をアイヌモシリ(人間の住む大地)として、独自の宗教、文化のもとに、主に狩猟・漁撈・採集によって生活していたアイヌ民族が、日本国家により、何の協議もなく一方的に土地を収奪され、民族の自決権や、言語、宗教を封じられ、北海道旧土人保護法の名のもとに、同化を強制され、民族の尊厳や権利が著しく踏み躙られている実態をご報告申し上げました。私たちが、日本国におけるアイヌ民族の復権のため、日本政府に対して、民族の権利を十分尊重した法律を制定するよう運動を展開してから既に2年を経過しようとしております。

この間、私たちは、日本国民に対してアイヌ民族の置かれている立場や法律制定の要望主旨について理解を求める集会を東京で実施致しました。

さらに、北海道の札幌市において、民族として始めて法律制定促進のための総決起集会を開催し民族の団結を図るとともに、札幌市内をデモ行進し、市民にアピール致しました。

日本政府は、これまで、かたくなに私たちの要望に対して門戸を閉ざしておりましたが、ようやく昨年12月、政府の事務次官会議で「アイヌ民族に関する新法問題」について検討をすることを決め、政府内に検討委員会を設置して検討を始めました。

私たちの運動の成果が実ったものと考えております。

しかし、これによって、これまで政府の姿勢が変わったという事ではありません。同化主義的考え方から抜けきれず、IL0169号条約の条文に対して異論をとなえたり、国連作業部会の議事運営にも異議を唱えたりしております。日本政府や今回私たちと同じ国からでている委員の方も、世界の先住民族のために熱心に検討されている委員の方と同様、誠意を持って検討に加わるよう願ってやみません。

さらに、政府内に設置された検討委員会の趣旨は、アイヌ民族に対する法律制定を前提として検討されるのではなく、法律が必要かどうかを検討する機関であるとしております。

単一民族の幻影をひきずり、アイヌ民族を同化した少数者としてしか捕えられていない政府が、アイヌを民族として認め、本当に私たちが望んでいる法律を作ってくれるのでしょうか。不安でなりません。

私たちは、さらに国民の理解と賛同を得るため日本の大都市である東京・大阪・福岡などで集会を持つ計画をしております。幸いなことに昨年6月、日本民族学会からアイヌ民族の意志を尊重するとの表明をうけ、本年は日本の歴史研究者が集まる最大の団体である「歴史学研究会」(会員約2,500人)からアイヌ民族の法律制定を支援するという機関決定をしていただきました。

私たちは、これからも日本国民の理解と支援を得てアイヌ民族の法律が一日も早く制定されるよう取り組んで参りたいと考えております。

さらに、国連における人種差別撤廃条約や子供の権利条約等の採択、ILOにおける第169号条約の採択、そしてこの「先住民に関する国連作業部会」で検討される「先住民族の権利に関する世界宣言」がアイヌ民族の運動の展開に計り知れない力となっております。

日本政府は、本年もアイヌの福祉対策として過去17年余にわたって何百億も注ぎ込んでいるというかも知れませんが、福祉対策の事業は、国、道が決定権を持ち、約半数以上は、一般国民とアイヌを含めた地域対策事業へすりかえとなっております。私たちが真に求めているのは福祉対策ではなく民族対策であり民族の尊厳と権利の回復のため法律を望んでいるのであります。

このページでご紹介しているテキストは、1987年6月から2000年11月にかけて、社団法人北海道ウタリ協会(現・公益社団法人北海道アイヌ協会)が、国際連合の会議に参加して発表した声明、報告、発表・演説の全文です。社団法人ウタリ協会『国際会議資料集』(2001年2月28日発行)を底本としました(明らかな誤植を修正しています)。この資料集には英訳が併記されていますが、ここでは日本語のパートのみ転載しています。(森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト)

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