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北海道ウタリ協会 1989年7月 第7会期・先住民に関する国連作業部会に対する声明

もくじ

第7会期1989年7月31日 先住民に関する国連作業部会に対する声明 第一回目

先住民に関する国連作業部会が今年で第7会期を迎え、「先住民族の権利に関する世界宣言」に向けて、世界の全ての先住民族の権利が保証されるために検討され、成果を上げられることを心から祈念するものであります。

ILO総会において採択された第107号条約の改定条約は、先住民族の要求からは満足の行くものではなく、多くの問題を含むものになりましたが、日本政府の同化主義者的考え方に立った意見が、改定条約のなかに少しでも反映されたとすれば残念でなりません。

国際連合が、先住民族の権利に関する世界宣言を一日も早く採択され、国際基準として、各国政府に遵守するよう要請されることを期待します。このためには、私たち、アイヌ民族も、皆様のご支援を戴きながら、国連先住民会議の一員として、世界の人権思想の高揚や民族の復権のために貢献させて戴きたいとおもいます。

先住民の人権擁護・促進に関する経過報告

これまでの運動経過
私たちは、一昨年、初めて先住民会議の仲間入りをさせて戴き、北海道・千島列島・樺太をアイヌモシリ(人間の住む大地)として、独自の宗教、文化のもとに、主に、狩猟・漁撈・採集によって生活していたアイヌ民族が、日本国家により、何の協議もなく一方的に、土地を収奪され、民族の自決権や、言語、宗教を封じられ、北海道旧土人保護法の名のもとに、同化を強制され、民族の尊厳や権利が、著しく踏み躙られている実態をご報告し申しあげました。
今、世界各地で、先住民族に対する抑圧・差別、侵略からの自由を求めて多くの方々が戦っておられます。
我々の祖先も、1456年・1669年さらには1789年などに収奪や抑圧に抵抗して戦いましたが、策略と奸計により屈した歴史を持っております。近代社会においては、世界の先住民族の方々が、私たちが辿った歴史を経験することがあってはならないと強く念願するものであります。
私たちは、いま、日本国におけるアイヌ民族の復権のため、日本政府に対して、民族の権利を十分尊重した法律を制定するよう運動を展開しておりますが、この運動は、世界の先住民族の権利の保障に対する運動と切り離せないものであり、国際社会としての取組みのなかで、民族の自立を確立して参りたいと考えております。

日本国政府の対応
日本政府は、咋年、この会議の席上で、「アイヌの人たちの日本社会への統合がこれまで進んできており、彼らを他の集団から明確に区分することが困難になりつつありますが、彼らは、独自の言語及び宗教を保持し、彼ら独自の文化が保存されてきました」と発言しております。
このことは、あたかもアイヌ民族を認めているような印象を与えておりますが、他の集団から明確な区分が困難なものが、どうして独自の文化を保持しているといえるでしょうか、民族としての集団があってこそ、そこに文化があり、人権があり経済があるのではないでしょうか、日本政府はアイヌ民族を同化された少数者としてしかとらえていないのであります。

また、日本政府はさきのILO107号条約の改正にあたって、改正条約の多くの条項の冒頭に「当該国及び当該関係住民の事情に即した方法及び範囲内で」という見解をだしております。

国内法として、北海道旧土人保護法という差別法が現存しているという矛盾についてどう考えているのでしょうか、このことは、各国の状況に応じた適用例外を強調することによって過去120年問の同化政策を継続する根拠を盛り込もうとしているものであります。

日本政府は、このような考えを改め、集団としてのアイヌ民族を認め、呼称もはっきりと内外に民族と表明することを望みます。

国内においては、日本政府のこのような態度を反映してか、いまだに、アイヌ民族の尊厳や権利が犯されております。

例えば、本年度においても、外務省の高官が単一民族国家論的発言をし、外務大臣が陳謝していること

国の機関である北海道開発局がアイヌの私有地を河川敷地や国道に無償使用していることが明るみになったこと

ダム建設に伴ってアイヌの地権者に対する土地強制収用や漁業権の否定がなされていること

など枚挙に暇がありません。

特に、昨年8月、北海道知事、北海道議会、当ウタリ協会が北海道旧土人保護法を廃止して、民族の自立をめざした新しい法律を制定するよう日本政府に要望してから早くも一年がたちます。この間、政府は、要望をうけとめる政府の窓口すら決めておらず、国会で追求されても、関係省庁に検討させていると逃れ、その関係省庁も、この問題は所管外のことであるとして責任を逃れ全く消極的姿勢に終始しております。

私たちは、まず、新しい法律の検討のための話し合いの場を設けてほしいと対話を希望しているにも拘わらず日本政府がこのような態度を続ける根底には、従来からの同化政策を継続すればよいという考えがあるのではないでしょうか。

全く民族の尊厳を傷付けるものであります。

日本政府は、福祉対策を、今後も、積極的に推進したいと言っておりますが、福祉対策の事業は、国、道が決定権をもち、アイヌ民族に決定権があるものは、殆どありません。

国、道が決定権をもっているもののうち、約45パーセントは、道路や、土地基盤事業であり、これらの事業は、一般国民とアイヌを含めた地域対策事業へすりかえとなっております。

私たちが求めている権利を尊重するための宣言、人権擁護活動の強化、アイヌ文化の振興、自立化基金の創設、審議機関新設などについての取組みは、殆どありません。

本年6月、日本民族学会の倫理委員会では、アイヌ民族の意志を尊重すると表明いたしました。日本政府は、これまでの考え方をあらため、一日も早く政府の窓口をきめ、新しい法律を制定するよう強く要望するものであります。

このページでご紹介しているテキストは、1987年6月から2000年11月にかけて、社団法人北海道ウタリ協会(現・公益社団法人北海道アイヌ協会)が、国際連合の会議に参加して発表した声明、報告、発表・演説の全文です。社団法人ウタリ協会『国際会議資料集』(2001年2月28日発行)を底本としました(明らかな誤植を修正しています)。この資料集には英訳が併記されていますが、ここでは日本語のパートのみ転載しています。(森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト)

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