12/1(日)ドキュメンタリー上映会&トーク「カムイチェプ サケ漁と先住権」

オホーツクの海・川・森から先住権回復をめざす 畠山敏エカシ(紋別アイヌ協会会長)インタビュー

もくじ

4 藻別川とサケ漁の権利

天然のサケが上る藻別川

コタンの脇を流れる藻別川のずっと上流には、かつて住友の金山(鴻之舞=こうのまい=鉱山)があった。大正から昭和初期にかけて国内有数の生産を誇った金山なのだが沈殿池の決壊などによる藻別川への鉱毒流出で魚が死滅することが、数度にわたって起きました。

それでも、私の子ども時代には川の色が(大量の魚で埋めつくされて)変わるほどサケ・マスが遡上していた。当時、私の父親は組合と相談して、サケ・マスの捕獲場をつくったんです。畜養も一時期やっていたのだが、藻別川は雨が降れば鉱毒が出るということで、すべて渚滑川に移りました。なので今の藻別川は、捕獲も畜養もしていない天然のサケが上る川になっています。

StoryMaps「藻別川/鴻之舞金山の公害史」

カムイチェㇷ゚ノミ

紋別アイヌ協会のカムイチェㇷ゚ノミのようす。2019年9月1日、紋別市の藻別川河口ちかくで平田剛士撮影。

この藻別川の河口付近で、2002年から毎秋、「カムイチェㇷ゚ノミ」という新しいサケを迎える伝統儀式を行なっています。

現在の日本の法律では川でのサケ漁が禁止されており、アイヌの儀式で使用するサケについては、道知事に特別採捕許可をその都度申請し、決められた尾数のみ採捕が許されることになっている。この許可申請には、さらに漁協とサケ・マス増殖事業協会の同意が必要です。

2015年だと思うが、同意を得るために漁協に行ったところ、「儀式に使うだけならこれだけで十分だろう」とサケが7尾だか8尾だか、マスも15尾か20尾と制限された。それでも我慢して、そのわずかな尾数で同意を得て網走の増殖事業協会まで行ったところ、窓口で「部課長が今出張中で夕方でなければ帰ってきません」と。漁協からは連絡が行っているので、部課長がいなくてもハンコのひとつぐらい押せるだろうに。

尾数の制限はされるわ、行ったらハンコももらえないわで、アイヌをどこまで馬鹿にしているんだとその場で書類を破って帰ってきた。アイヌは元々、川を上るサケを捕りながら、自然の恵みをいただきながら生きてきた民族です。それが、儀式で捧げるためのサケを捕ることすら、組合やら道やら和人たちに伺いをたてなければならないのは差別だろう。そんなこともあって、もう許可申請などせずにアイヌとしての自己決定権に基づいてサケを捕ろうと決意しました。

一昨年(2017年)、網をかけてサケを捕っていたら、通報があったらしく、警察がやってきた。私は「現行犯で捕まえてくれ」と何度か手を差し出したが、警察は捕まえようとはしない。この時は漁協の人が来て、事後的に処理をしてしまった。

昨年(2018年)は、事前に道庁の職員が許可申請をするよう何度か説得に来た。でも、最初にオホーツク振興局の職員が来た時には、警察官2人が同行していた。警察を連れてくるなんて、こちらをビビらせようということでしょうか? だからこっちも「話に来たのだったら警察は関係ない」「警察が帰らないうちは話し合いには応じない」と突っぱねた。和人というのは、弱者に対して威嚇するというか、そういうところが多々あるからね。結局、昨年は網を入れる前から4、5人の警察が見張っていて、漁を阻止された。祭壇には、もらってきたサケを捧げるしかなかった。いくつかメディアも来ていたので、その様子はテレビや新聞でも報道されました。

メモ カムイチェㇷ゚ノミ

アイヌ民族と川サケ:先住民族アイヌは、河川を遡上するサケを「カムイチェㇷ゚」(神が与えてくれた魚)と敬意を込めて呼び、主食・素材・交易品・信仰対象などさまざまな形で利用しながら、19世紀半ばまで、各水系の個体群をそれぞれ高いレベルで保ち続けていました。(「カムイチェㇷ゚読本」p2

メモ 川でサケを捕ったら密漁

川サケ禁漁と特別採捕(トクサイ)許可制度:現在の北海道の川ではサケは禁漁です。まず水産資源保護法が「内水面においては、溯河魚類のうちさけを採捕してはならない」「ただし、漁業の免許を受けた者又は……農林水産大臣若しくは都道府県知事の許可を受けた者が、当該免許又は許可に基づいて採捕する場合は、この限りでない」(25条)と定めています。それにもとづいて北海道で「知事の許可」を規定しているのは北海道漁業調整規則で、その52条には「……知事の許可を受けた者が行う試験研究、教育実習、増養殖……伝統的な儀式若しくは漁法の伝承及び保存並びにこれらに関する知識の普及啓発……のための採捕については、適用しない」と書いてあります。(平田剛士)

先住権としてのサケ漁の権利

今年(2019年)も、カムイチェㇷ゚ノミの前に道の職員から話がしたいと連絡があった。昨年のことがあり、春に新しい法律(「アイヌ施策推進法」)ができたこともあって、道から何か前向きな提案があるのかと期待したが、結局何もなく、ただ「申請書を出してください」と。話は平行線のままでした。知事と直接話をしたいと要請もしたけれどなしのつぶてだった。今年は、8月31日に先祖供養の儀式を行い、9月1日にカムイチェㇷ゚ノミを行いました。昨年と違ったのは、警察は現場に来ておらず、代わりに道の職員が車の中で見張っていた。

カムイチェㇷ゚ノミを行う当日の早朝、丸木舟に乗り込み、前日に仕掛けていた網にかかったサケ・マスを1尾ずつ捕っていった。川岸では、大勢のメディア関係者と支援者が見守っていました。しばらくすると様子に気づいた道オホーツク振興局の職員2名が駆けつけてきた。一人は無言で動画を撮っていた。もう一人は「畠山さん、やめてください。違法です」と繰り返していたが、知らん顔して捕り続けました。これはアイヌの先住権を回復するための闘いなのです。

儀式が無事終了し、参加者やメディア関係者が解散した後で、警察が家宅捜索にやってきました。現場で見ていた道職員が、警察に告発したのです。その後、サケ捕獲に関わった関係者が警察に呼ばれて何日も事情聴取を受けています。

国連で先住民族の権利宣言が採択され、日本でも新たなアイヌ政策が喧伝されていますが、アイヌがサケを捕れば「密漁」とされる状況は、この国では明治このかた、何―つ変わっていません。

参考映像
【HTBセレクション】なぜサケを獲ってはいけないのか⁉ アイヌ男性の訴え(2018.9.5 イチオシ!で放送)
【HTBニュース】道がアイヌ男性を告訴 研究者らが取り下げ求める

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