・『北海道史事典』
北海道史研究協議会 編集 2016年 北海道出版企画センター ジャンル 通史
筆者が関連の原稿を書く時、いつも手元に置いてひんぱんにページを手繰るリファレンス本。
前近世(20項目)・近世(30項目)・近現代(64項目)・資料編の4パートからなり、本書のために集結した歴史研究者たちがそれぞれの研究成果をもとに、歴史的事件のてんまつを過不足なく解説してくれます。かれこれ10年つきあって、筆者の蔵書はポストイットや傍線だらけです。
――と、そんな実用性もさりながら、各項執筆者たちがアイヌ先住権を強く意識したスタンスで、物怖じせず従来の通説を実証的に覆そうとしているところに、筆者は心引かれます。
たとえば、小川正人氏は、かつて市町村史などに珍しくなかった「先住していたアイヌの人びとはいつの間にか姿がみえなくなりました」といった表現を、〈明らかに、移住してきた側=和人から見た言い方である〉と批判したうえ、19~20世紀に開拓使や北海道庁が各地でアイヌに強いた移住の実例をいくつもあげて、〈これらの移住が、日本国家による北海道の領有と統治の確立を優先し……アイヌの生活の場そのものも強制的に動かしてきた施策〉、つまり紛れもない強制移住だったと判じています(p208~270)。
あるいは山田伸一氏は、〈アイヌ語に由来するものが多い〉と思われがちな北海道の地名が、実はその〈多くが、もともとのアイヌ語地名そのままではない〉点にこそ注目すべき、と提起します。19世紀以降の地名表記の変遷をていねいにあとづけ、アイヌ語地名が日本の政策によってことごとく抹殺されていく過程を見事に解明しています(p320~323)。
発刊から10年を経て、増補版の登場を待ち望んでいます。(森川海プロジェクト 副代表 平田剛士)
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