
国立国会図書館デジタルコレクションhttps://dl.ndl.go.jp/pid/787952/1/158
法令ID番号00005018 明治5年10月10日 北海道土地売貸規則
原文 | 現代語訳 | |
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第三百四号 (十月十日)(布) | 第304号 (1872年10月10日) 布告 | |
北海道開拓創業以来募移自移ノ徒日月ニ増加今日ニ至リテハ運漕行旅モ不便トセス然ルニ元ヨリ広漠ノ地ナレハ肥沃多産ニシテ廃棄スル者猶十ノ八九ニ居レリ因テ今度全道間広ノ地低価売下緩期除租等ノ規則別紙開拓使布告ノ通施行セシムル條墾闢牧畜或ハ漁猟採鉱都テ生産興工ノ志願有之者ハ同使ヘ可申出事 | 北海道の「開拓」事業がスタートして以来、政府の募集事業に応じたり、自分の意志で決めたりして、(本州以南の方面から)北海道に移住する人がどんどん増えて、いまでは長距離の移動も苦にならなくなってきた。とはいえ、非常に広大な島なので、せっかく肥沃で生産性が高いのに、80〜90%もの入植者が(定住せず)土地を放棄している。このたび、北海道全体の土地を安い値段で売却することが決まり、免税期間などを別紙「開拓使布告」のように定めて施行する。ついては、農地を開びゃくしたい人、牧畜をやりたい人、漁業や猟業、鉱業などを志望して土地を買いたい人は、それぞれ開拓使に申請しなさい。 | |
(別紙) 北海道土地売貸規則 | (別紙) 北海道土地売貸規則 | |
第1条 | 原野山林等一切ノ土地官属及ヒ従前拝借ノ分目下私有タラシムル地ヲ除ノ外都テ売下ケ地券ヲ渡シ永ク私有地ニ申付ル事 | 「官属」の土地・すでに(人民に)レンタル中の土地・すでに私有済みの土地を除いて、原野・山林などを含むすべての土地を売却して地券を渡し、永久に私有地とする。 |
第2条 | 売下ノ地一人十万坪ヲ以テ限リトシ下手後十ケ年除租タルヘシ尤モ已ニ私有シタル地ヲ相対売買スル者ハ其坪数制限ナカルヘキ事 | 売却する土地の面積は一人あたり10万坪(33ha)を上限とする。売り下げ後の10年間は税金を免除する。やむをえず私有地を売買する場合は、土地面積の制限は設けない。 |
第3条 | 売下ノ地価上等千坪一円五十銭中等同一円下等同五十銭千坪以下其割合タル可ク且其地代即納タルヘシト雖モ家産中人以下或ハ罹災窮乏ノ者ハ三年乃至五年賦上納申付ル儀モ可有之事 | 売却する土地価格は、上等(ハイクラス)で1.5円/1000坪(33a)、中等(ミドルクラス)で1円/1000坪(33a)、下等(ロークラス)で0.5円/1000坪(33a)とし、面積1000坪(33a)未満の土地の場合も同様の基準で算出すること。土地代金は即日支払いを原則とするが、資産が中級(ミドルクラス)以下の人や、災害のために当座のお金がない人は、3~5年の分割払いを願い出ることもできる。 |
第4条 | 既ニ私有スルノ土地ハ牧畜開墾等一切ノ産業ハ勿論他人ヘ売却スルモ其地主ノ自由タルヘシ尤右等下手スル節ハ水利運便等ノ上ニ注意シ其方法及ヒ期限等詳細ニ可申出事 | 従来からの土地所有者は、牧畜・農地造成など、どんな産業向けにも自分の土地を自由に売却できる。ほかの個人に売却するのも自由である。ただし、そのように土地を売買する際には、土地所有者はその土地での水利用や交通の現況、それらインフラの利用期限・利用契約などについて、相手に詳しく説明すること。 |
第5条 | 人民私有ニ属スル土地ト雖外国人ヘ売渡シ或ハ之ヲ引当トシテ金子ヲ借受ル等禁止タルヘキ事 | (官有地ではなく)私有地とはいっても、その土地を外国人に売却したり、その土地を担保に外国人からお金を借り入れたりすることは禁じる。 |
第6条 | 土地買下ノ後開墾其他共上ノ地ハ十二ケ月中ノ地ハ十五ケ月下ノ地ハ二十ケ月ヲ過キ不下手者ハ上地申付ル事 | 土地を購入した後、期限内にその土地を開墾して農地化するなどの利用を行なわなかった場合は、その土地を返納しなくてはならない。その期限は上等地で購入後12カ月、中等地で15カ月、下等地で20カ月である。 |
第7条 | 除租満期後ノ制程ハ追テ其地ノ差等ニヨリ適当ニ可相定事 | 免税期間が終わった後の課税方法については、その時の状況を見ながら適宜制定すること。 |
第8条 | 採鉱漁猟等都テ殖産興工ノ見込アリテ出願スル者ヘハ其方法取調年限ヲ立貸地等ニ差出シ税則ハ出品ノ精粗多寡ニ随ヒ追テ適当ニ可相定事 | 鉱物資源の採掘場、漁場・狩猟場の開発など、殖産興業につながると見込んで土地売り下げを申請する人たちには、あらかじめ(官が)それぞれの計画を審査し、期限を設定して(売却ではなく)貸借契約を結ぶこともできる。また、納税については、生産物の品質や多寡に応じて適宜制定することにする。 |
第9条 | 右等諸工業ノ新発明或ハ水陸運便等ニ費財尽力シテ国家人民ノ利ヲ興シタル者ヘハ其功業ノ大小軽重ニ因リ若干ノ土地ヲ付与シ或ハ専売除租ノ栄利ヲ与ル等ノ処置可有之事 | 第8条に挙げたような工業開発に取り組んで、新たな発明や、陸運・海運のためのインフラ整備に私財を投じて、ひろく国家・人民に利益をもたらした功績者には、その内容に応じて、土地の付与、専売権、免税といった特典を与えることができる。 |
開拓使 | 開拓使 |
1886(明治19)年6月29日、閣令第16号「北海道土地払い下げ規則」制定にともない、北海道土地売貸規則は廃止。
先住民族アイヌに対する「同化政策」の多くは、開拓使(1869-1882)が出した「布達(ふたつ)」や「達(たっし)」によって実行されています。そこにはなんと書いてあったのか――?
開拓使が発した法令は、明治政府が『開拓使事業報告』『法令全書』『開拓使布令録』といったインデックスにまとめています。国立国会図書館が運営する検索サイト「日本法令索引〔明治前期編〕」を利用すると、それらインデックスから目当ての法令ページを探して、デジタルスキャン画像を閲覧できます。とはいえ、明治初期の高級役人たちが作った法令は、候文(そうろうぶん)スタイルで書かれていて、現代の私たちには一目ではなかなか理解できません。そこで、冒険的なことは承知の上で、だれにでも読みやすいような現代語訳を試みました。なお法令ID番号は「日本法令索引 明治前期編」に基づいています。(平田剛士)
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