ウェブサイトをオープンしました(2024年10月1日)

北海道ウタリ協会代表団 1998年12月 先住民族の権利宣言草案に関する第4回人権委員会作業部会 声明

議長 発言の機会を与えていただいたことに感謝いたします。

日本における先住民族の最大の組織である「北海道ウタリ協会」は、これまでも、各国の先住民族団体とともにこの宣言草案に賛意を表明し、一切の修正なしに採択されるべきことを望んでおります。

そして、それを規範としてわが国においてアイヌ民族に対する各般の施策が速やかに推進されるべきとの立場から、以下のとおり日本政府がこれまでにこの場で表明したコメント若しくは見解等に対して意見を述べるとともに、この場を借りて日本政府の前進的な見解の表明を求めるものであります。

(1)先住民族の用語について(関係各条)

日本政府は、1996年の会議において「先住民(indigenous peoplesではなくindigenous people)の語の使用を支持し、その定義が草案の中に含まれるべきである。(E/CN.4/1997/102 No.68.112)」と主張している。

また、1997年に提出した第15条に関する修正提案の中では、「先住民族(indigenous peoples)」の語句を使用しながらも、その語句の使用は「自決の権利あるいは国際法の下でのその語句に付随するその他の権利に関し含蓄をもつものではない。(E/CN.4/1998/106 page.14)」として、この語句が、集団の権利等に関する論議に波及することを警戒している。

しかし、北海道ウタリ協会としてはこれまでも主張してきたように、この宣言においては「先住民族(indigenous peoples)」の用語が定義なしで使用されるべきだと考える。(E/CN.4/1997/I02 No.150)

とくに、民族という集団が明確に意識されるためには、草案どおりの「peoples」を用いるのが適当であると考える。

(2)自決権について(第3、31、34条他)

日本政府は、「他の国際人権文書では、自決の概念は脱植民地の文脈で、主に国家からの独立を求める、植民地支配された人々のために述べられており、その概念が国民集団の一部を形成する集団に平等に適用できるかどうか、疑問である。(E/CN.4/1997/102 No.338)」としている。

しかし、北海道ウタリ協会としては、先住民族の集団が、国家の統治の下にあっても、その集団を維持するために一定の秩序をもち、自らの責任のもとに一定の決定(草案第3条にいう「自らの政治的地位を自由に決定」)を行うことは欠かすことのできない権利であると考えている。

この点については、カナダ代表の「自決の問題が宣言の中心であり、自決権が国際社会の基本であり、国連憲章と、経済、社会、文化的権利に関する国際条約にそれを含めることが、すべての人権保護に重要である。(E/CN.4/1997/102 No.332)」との意見に対して、敬意と賛意を表するものである。

また、日本政府発言の後段でいう「国民集団の一部を形成する集団」がアイヌ民族を想定したものだとすれば、平等な適用という面でどのような問題が生ずると考えられるのかについて、日本政府に伺いたい。

(3)集団的権利について(第6、7、8、34条他)

日本政府は、「本宣言案には多くの『集団的権利』が規定されているが、かかる概念は国連の作成、採択の国際文書に例をみないものであり、また、その概念は確立されたものとは言えないので、このような新概念を導入することは慎重であるべきである。(1995年11月20日日本政府コメント)」とし、さらに、1996年にも「集団的権利は国際人権法には存在しない。(E/CN.4/1997/102 No.184)」との発言を繰り返している。

しかし、「集団的権利」については、これまでにILO第169号条約で概念規定化されており、この宣言草案ではさらにその権利を明確に規定しようとして検討されているものであると北海道ウタリ協会は考えている。

この点についても、カナダ代表の「国家の実践と学究的文献の調査は、国家内に居住する集団の内部的権利の概念を含んで拡大しつつある現存の権利であることを示している。そしてそれは、国家の領土的統一性を尊重するものである。(E/CN.4/1997/102 No.332)」との見解を支持する。

日本政府が過去に前記のような見解を主張した以降、日本国内では1997年の「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」の制定をはじめとして、アイヌ民族を先住民族の集団として認めることが当然視されるようになってきている。

以下にその具体例(要旨)を述べるが、このような日本国内における状況の変化を踏まえて、日本政府として「集団的権利」についてどのような見解をもつのか、再度伺いたい。

・ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会報告(1996.4)
アイヌの人々が北海道等に先住していたことは否定できず、引き続き民族としての独自性を保っている。

・ニ風谷ダム事件判決(1997.3)
アイヌの人々はわが国の統治が及ぶ前から主として北海道において居住し、独自の文化を形成し、またアイデンテイティを有しており、これがわが国の統治に取り込まれた後もその多数構成員の採った政策等により、経済的、社会的に大きな打撃を受けつつも、なお独自の文化及びアイデンティティを喪失していない社会的な集団であるということができる。

・「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」の制定(1997.5)
参議院内閣委員会質疑(1997.4)
萱野茂議員~過日、総理が「アイヌの先住性は歴史の事実」と述ベたが、内閣の認識と考えてよいか。
梶山官房長官~私も同感であり、内閣の認識も同じである。

衆議院内閣委員会質疑(1997.5)
池端清一議員~参議院で先住性について「内閣の認識」と発言したが、内閣の統一見解と理解してよいか。
梶山官房長官~そのとおりであり、総理も先住性について認めている。(両委員会では、新法案の可決とともに)

なお、この法律が衆議院で可決成立する前日の1997年5月7日、北海道ウタリ協会の笹村二朗理事長、澤井進・飯田昭市・貝澤輝ー副理事長、高野勇夫常務理事、秋田春蔵総務部会長、澤井政敏新法特別委員会委員長の7名の幹部が、首相官邸において当時の橋本龍太郎首相をはじめ、梶山静六官房長官など政府要人と会談した際、「(成立予定の新法は)今後とも、国連における先住民族の権利宣言など国際的な動きに応じて検討する。」と口頭で確約している。北海道ウタリ協会は、このことについて大きな期待をもって見守っている。

(4)土地等に対する権利について(第25~30条)

第25条から第30条にかけての、土地および資源等に関する権利に関連して申し上げたいが、北海道ウタリ協会は、1982年の総会において、「千島列島における先住民族としてのアイヌの権利を留保する」旨の決議を行い、さらに、1983年の総会において、日本政府がロシヤ政府に対して返還を求めている「北方領土」問題に関して、次のような基本方針を確認している。

  1. 日本政府及び北海道庁は、徳川幕府による開発以前の全千島における先住者であるアイヌ民族の地位を再確認すること。
  2. 日本政府及び北海道庁は、「北方領土」に関連し、北海道についても先住者がアイヌであったという厳然たる歴史的事実を明確にすべきこと。

先にも述べたように、日本政府は1997年5月に「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」を制定し、その付帯決議の中で「アイヌの人々の『先住性』は歴史的事実である」としている。

このことは、北海道ウタリ協会が1983年に求めた「基本方針」について、全面的に認めたものと理解してよいのか、日本政府の見解を伺いたい。

このページでご紹介しているテキストは、1987年6月から2000年11月にかけて、社団法人北海道ウタリ協会(現・公益社団法人北海道アイヌ協会)が、国際連合の会議に参加して発表した声明、報告、発表・演説の全文です。社団法人ウタリ協会『国際会議資料集』(2001年2月28日発行)を底本としました(明らかな誤植を修正しています)。この資料集には英訳が併記されていますが、ここでは日本語のパートのみ転載しています。(森・川・海のアイヌ先住権研究プロジェクト)

  • URLをコピーしました!
もくじ