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アイヌ先住権と人種差別撤廃条約

平田剛士 フリーランス記者

もくじ

人種差別撤廃条約とは?

日本は、「人種差別撤廃条約」の締約国1です。この条約によって、日本政府は〈人種差別を防止し、処罰するために立法、司法、行政、その他の措置を取ることが義務付けられ〉2ています。

条約の日本語の公式名は、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」。英語の名称=International Convention on the Elimination of All Forms of Racial Discriminationの頭文字を並べて、ICERDと書くこともあります。

いまから61年前、1965年12月21日、〈植民地主義や、これにともなう隔離・差別のあらゆる慣行を速やかに、かつ無条件に終了させる必要性〉(前文)を訴えて、国連総会は全会一致でこの条約を採択しました。世界の人びとがこの条約を求めた背景に、第二次世界大戦(1939-1945年)の惨禍をまねいた植民地主義(コロニアリズム)・全体主義(トータリタリアニズム)・結束主義(ファシズム)、そして人種主義(レイシズム)といった要因に対する深い後悔と反省があったのは、間違いありません。加えて条約の採択当時、南アフリカ共和国の人種隔離政策(アパルトヘイト)や、ヨーロッパ各地でなお根深い反ユダヤ主義(アンティセミティズム)に対する強い危機感も込められていました3

条約の名にある「あらゆる形態の人種差別」には、人種、皮膚の色、世系(せいけい:血筋のこと)、国籍ないし民族的出自に基づく区別・排除・制限、あるいは優先(ひいき)が当てはまります(第1条)。先住民族に対する差別も、この条約のカバー範囲です(人種差別撤廃委員会「先住民族に関する一般的勧告23」、後述)。条約の前文は〈人種的相違に基づく優越性のいかなる理論も科学的に誤り〉であり、〈いかなる場所においても、人種差別を正当化することはできない〉と断言しています。

条約、守ってますか?

条約の発効に合わせて、国際連合は、人種差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Racial Discrimination、略称CERD:サード)という独立機関を設けました。それぞれの締約国がちゃんと条約を守っているかどうかを厳格に監視するためです。CERDは、国連本部で開く締約国会議の選挙で選ばれた〈徳望が高く、かつ、公平と認められる18人の専門家で構成〉(条約第8条)されています。

この条約の締約国の政府は、自国内の現状を定期的にリポートにまとめて、CERDに提出する義務を負います。CERDは、そのリポートを分析し、また独自の調査もおこなって、「総括所見」(Concluding observations、直訳すると「締めくくりの意見」)を作成して、世界に公表しています。総括所見は、条約と照らし合わせて、その時点でまだその国に足りていない部分を指摘し、改善をうながすアドバイス集、といえるでしょう。このシステムは「国家報告書審査」と呼ばれます。

日本政府は、いまから31年前、1995年にこの条約を批准しました。日本政府とCERDとの間で、これまでに32本(2026年1月現在)の文書がやりとりされています。

このうち、日本政府がこれまでにCERDから受け取った総括所見は、2001年・2010年・2014年・2018年の4本です。そして、これら4本の総括所見のすべてが、日本の対アイヌ政策に触れて、いまだ不十分な点を指摘しています。以下のページに、その部分を抜粋しました。

「先住民族に関する一般的勧告23」

それぞれの締約国の政府に個別に送る「総括所見」とは別に、CERDは、すべての締約国に向けて「一般的勧告(General Recommendation)」と呼ぶ文書をつくって公表しています。

なかでも、1997年の「先住民族に関する一般的勧告23」は、〈先住民族に対する差別は条約の適用範囲内〉と確認したうえで、〈先住民族の共有地・地域及び資源を所有し、開発し、管理し及び使用する先住民族の権利を承認し及び保護すること、先住民族が伝統的に所有してきた土地・地域が奪われ、又は当該土地・地域が先住民族の自由なかつ十分に説明を受けてなされる同意なしに他の者が居住されもしくは使用されている場合には、当該土地・地域を返還するための措置をとること〉4などを締約国の政府に求めました。

これまでCERDが日本政府にあてて示した総括所見4本のすべてが、対アイヌ政策を進めるときにこの「一般的勧告23」を参考にするよう、うながしています。


脚注

  1. 「人種差別撤廃条約は、人権及び基本的自由の平等を確保するため、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策等を、すべての適当な方法により遅滞なくとることなどを主な内容とします。1965年の第20回国連総会において採択され、1969年に発効しました。日本は1995年に加入しました。」
    日本外務省ウェブサイト
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/index.html
    2026年2月5日閲覧 ↩︎
  2. 国際連合広報センター
    https://www.unic.or.jp/activities/humanrights/discrimination/racial_discrimination/
    2026年2月8日閲覧 ↩︎
  3. 日本外務省「人種差別撤廃条約作成及び採択の経緯」https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/menu.html 2026年2月9日閲覧 ↩︎
  4. 日本語訳は「反差別国際運動」のウェブサイトから。
    https://imadr.net/document/gc-cerd-23/
    2026年2月8日閲覧、一部を改変しています。 ↩︎
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